九州大学 山田研究室

eポートフォリオはメタ認知を向上させるのか???

2022年10月26日

皆さん、はじめまして。

修士1年の平田です。私は英単語学習の際に、学習者が、単語の“音声”に着目し、単語の音を聴いたり、発音したりしながら単語を覚える「学習ストラテジー」を身に着けるための、システム開発・評価を行っています。学習ストラテジーとは、簡単に言うと、学習者の学習観や信念と深く結びついた「学習方法」のことです。学習ストラテジーと学業成績の関連性は多くの先行研究で指摘されており、特定の学習ストラテジーを使用することで、生徒の学業成績が向上することが報告されています。学習ストラテジーの使用を促すためには、学習者の「メタ認知」を向上させることが必要です。この点を踏まえて、私のシステムでは、学習者の「メタ認知」を向上させることで、学習ストラテジー使用を促す設計を検討しています。

山田研究室では毎週、英語文献ゼミを行っています。これは担当者が自分の研究に関わる先行研究を読み、その研究の構造、インパクト、限界点などを議論することを目的としてます。今回、私は下記の論文を読みました。

論文名:“Enhancing metacognitive awareness of undergraduates through using an e-educational video environment”
著者: Serhat Altıoka, Zeynep Başerb, Erman Yükseltürka
発行年: 2019年
論文誌名: Computers & Education

論文を選んだ理由は、自分のシステムを開発する上で、メタ認知の向上に必要な設計要素や、メタ認知評価の指標・統計処理を把握したいと思ったからです。

内容をざっくり言うと、ポートフォリオが、学生のメタ認知レベルに与える影響を検証した研究になります。ポートフォリオは、学習活動のモニタリングと評価、内省を促し、学習仲間や教師からのフィードバックを可能にすることから、教育現場で広く活用されています。この論文では、85人の大学生を対象に、ポートフォリオを使うグループと、そうでないグループに分割した実験が行われ、実験前後での両グループ間のメタ認知スコアが比較されました。実験の結果、ビデオポートフォリオを使ったグループには、有意なメタ認知の向上が示されました。したがって、ポートフォリオは、学生のメタ認知を向上させ、学習のプロセスを効率的にサポートすることが明らかにしていました。

この論文は、メタ認知に関する先行研究や、メタ認知を向上させる要素、メタ認知を評価するための指標や統計的処理を理解するために、大変参考になりました。とりわけ、ポートフォリオ上の、他の学生の記録を閲覧できる機能が、自分の学習行動を内省することに繋がるという知見が得られました。しかしながら、実験デザインに関しては、疑問が残りました。例えば、実験グループでは、ポートフォリオ以外に、ゲームを使った学習も実践されており、実験グループのメタ認知の向上は、その効果も関係しているのではないかと感じました。また、メタ認知を促進するための、ポートフォリオのデザインに関しては言及されておらず、ポートフォリオのどの要素がメタ認知向上に寄与するのかを知ることができなかったのは残念なところでした。実践としてはおもしろいのですが、研究としては、見たい観点の切り分けが重要なので、その点はちょっと疑問に残りました。

しかし、Computers & Educationという教育工学最高峰論文誌の論文を読み、論文の書き方、論理展開など様々な点を学ぶことができました。

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