九州大学 山田研究室

発話能力向上の支援におけるVRツールの有効性:CLTアプローチの活用

2023年01月31日

みなさん、こんにちは、M1の李瑭です。
今回の英語文献ゼミの論文についてご紹介いたします。
以前の記事でも紹介しましたが、私の研究では、言語学習を支援するためのVR技術の活用を検討しているため、なぜVR技術が必要なのか、学習者や学習成果にどのような影響を与えるのかを検討することは必要なことだと思います。そこで、今回読んだ論文は、言語学習におけるVR技術の発話能力の向上への影響に関する内容でした。

論文のタイトル:Effects of using mobile-based virtual reality on Chinese L2 students’ oral proficiency.
論文誌:Computer Assisted Language Learning,34(3): 225-245.
著者:XIE, Ying; CHEN, Yan; RYDER, Lan Hui
発行年:2019

下記が本論文の概要になります。もしご興味がありましたら、ぜひ本論文をお読み下さい。

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コミュニカティブ・ランゲージ・ティーチング(Communicative Language Teaching:CLT)というアプローチでは、言語学習がターゲット言語の徹底した相互作用と最大限の使用によって行われることを強調しています。一方、第二言語学習者と外国語学習者に対しては、発話能力の向上を達成するために、適時に必要なフィードバックを受け、十分な練習を積む必要があります。そのため、CLTアプローチに基づいて学習者の発話能力を向上させることは有効であると考えられます。

この研究では、VRツールを用いて学習者の発話能力向上を支援しました。外国語学習の場面においては、VRを通じて、本物のコミュニケーションと内容を挙げることが、最大の教育的利点の1つと考えられる。なぜかというと、人の身体を取り囲む空間内の物体は、より徹底的かつ複雑な方法で処理されるため、VRツールによる強い臨場感は、物体との距離を大幅に縮め、脳が多感覚でスキーマを活性化して、学習体験を向上させることが実現できる。そのため、VRツールは、シーンに没頭することができ、ターゲット言語が本物の文脈で最大限に使用されるため、CLTアプローチの活用を支えるための良いものと言えるでしょう。

この研究では、1学期間の授業を通じて、VRツールの発話能力向上効果を検証しました。参加者が観光ガイドに扮して中国の観光地を紹介し、VRまたはパワーポイントを使ってその内容を発表することが求められました。データ分析の手法については、被験者間のばらつきの影響を軽減することを考慮する上に、被験者内実験計画とそれに対応する分析を採用しました。参加者の発話能力をうまく評価するために、混合法による説明的順次デザイン(sequential explanatory mixed-method design)を採用しました。混合法による説明的順次デザインとは、量的分析と質的分析の2つの段階からなり、まず、参加者の発話発表を量的に分析し、得られた発見を実証し説明するために質的データを分析することです。すなわち、VRツールに対する参加者の認識に関する質的分析結果は、量的データの解釈を説明し、立証するものになります。

参加者の発話能力に関する量的分析結果を、内容、流暢さ、語彙、発音、文法の5次元および発話発表の合計スコアから検討します。一方、質的分析については、リフレクションペーパーを用いて、参加者の個別インタビューを記録し、解釈的質的データ分析アプローチ(interpretive qualitative data analysis approach;研究の焦点が、その現象が生じる可能性がある理由と、その現象が時間とともに発展する経緯を説明することにある場合に適切である方法)を用いることで量的分析の結果に補足していきます。さらに、時間経過による発話能力の向上の影響を考慮し、データ分析では、時間経過の観点から内容、流暢さ、語彙、発音、文法の5つの影響を個別に分析しました。

その結果、VRツールを使用した場合の参加者の内容、語彙、合計スコアは、VRツールを使用しない場合よりも統計的に有意に高いスコアを示しましたが、流暢さ、発音、文法などの他の次元は、VRツールの有無にかかわらず、同様のスコアを示唆しました。量的データにより、VR ツールを使用した場合の参加者の発表内容と語彙は、VR ツールを使用しない場合よりも統計的に有意に優れていることが示された。質的分析により、この有意差は3つ要因によってもたらされた可能性があることが判明しました。

  ・VRツールは発表の事前準備を容易にした。

  ・未知のものが参加者の興味を喚起した。

  ・VRツールは現実に存在するものを身近に感じさせ、アクティブ・ラーニングを促進した。

結果をまとめると、VRツールによって参加者の学習意欲が高まり、自発的に学習するようになったことで、アクティブラーニングが促進されたことになります。

私の所感ですが、この論文では、VRツールが学習者の興味とモチベーションを高め、その結果、学生によるアクティブラーニングを可能にする効果について実証的な証拠を提供し、VRからの没入感が学習者の興味を高める上で重要なものであることを明らかにしました。この点について、言語学習としてのVRツールの利点を示すなど、私の研究にも参考になると思います。しかし、この論文に不明な点もいくつかあります。

まずは、発話能力を評価するための5つの観点では、「内容」を指すことが明らかに示していないことです。「内容」に関することが明確に説明しなかったため、参加者の表現がどの程度やっているのか、どう評価したらいいのかわからないのです。

次に、VRツールが学習者の発話能力向上をどのように支援しているのかについては、これまであまり知られていない、という点です。CLTアプローチでは、本格の文脈において本格の相互作用することで、スピーキングの練習をすることです。しかし、この論文では、VRツールを用いてスピーキングの練習や発話支援に関する機能が特になさそうため、VRツールを学習ツールというより、参考資料の提供と発表の実施のためのツールと考えており、CLTアプローチの活用とは言えないと思うのです。CLEアプローチに基づき、学習者の発話能力をサポートするためにVRを学習ツールとして活用する場合、例えば観光客や観光地のスタッフとターゲット言語でコミュニケーションを取る機会があるシーンを学習者に体験してもらい、発話能力を向上させることも可能ではないか?と考えています。

最後、パワーポイントの活用とVRを使った発表を比較することで、学習者の発話能力を評価することは本当に適切なのでしょうかという点です。パワーポイントを用いて発表する場合、学習者が使用する学習資料について明確な説明がなく、観光地の情報を調べながら発表の事前準備をすることになった可能性があると思いますが、VRツールでは、シーンが表示され、そのシーンに関する説明が与えられるため、与えられた情報は非常に豊富で、学習者の発表の事前準備に役立っている。VRを使った発表とパワーポイントを使った発表の2つの場合の学習者が受け取る情報の違いのうち、この部分を除外せずに、VRツールによる発話能力の有益性として結果を検証することの妥当性はあるのかな?とちょっと疑問には感じました

しかしながら、この論文は、実験計画の部分で私の研究に大変勉強になりました。 データ分析の方法について多くを学ぶと同時に、実験結果が研究の目的に合致しているかどうかを確認することの重要性にも気づかされました。 実験の結果をどのように研究の目的に向かわせるか、より深い考察が必要だと感じ、ますますよい研究が進められるように邁進していきたいと思います。

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