九州大学 山田研究室

LLMに思考能力を持たせるには、そしてそれを教育工学にいかに応用できるか?

2025年06月23日

皆さん、こんにちは。研究生の李です。
先日の英語文献ゼミで読んだ論文について、その内容と私の感想を交えて紹介したいと思います。

論文タイトル:Chain-of-Thought Prompting Elicits Reasoning in Large Language Models
出版年: 2022
著者名: Jason Wei, Xuezhi Wang, Dale Schuurmans, Maarten Bosma, Brian Ichter, Fei Xia, Ed Chi, Quoc V Le, Denny Zhou
論文誌: Advances in neural information processing systems
巻号:第35巻
ページ :24824-24837

本論文は、大規模言語モデル(Large Language Model、LLM)が複雑なタスクを効果的に処理できるようにするための方法について検討しています。この論文で紹介される方法を学ぶことで、LLMのアプリ(例えばChatGPT)の研究への効率的な活用が期待できると考え、この興味深く実用的な論文を皆さんにおすすめしたいと思いました。下記が論文の内容になります。

近年、大規模言語モデル(LLM)の急速な発展に伴い、その基礎能力はモデルの規模拡大によって大きく向上しています。しかし、算術計算や常識理解、記号推論など、多段階の複雑な推論が必要なタスクに対しては、従来のプロンプト方法にはまだ限界があります。この課題に対応するために、本論文では「チェイン・オブ・ソート(Chain-of-Thought Prompting、略称CoT)」という新しい方法を提案しています。この方法は、モデルが一連の中間推論ステップを生成することにより、その推論能力を大幅に向上させるものです。

チェイン・オブ・ソート(CoT)とは、入力された問題に対して、モデルが明確で論理的かつ一貫性のある一連の中間ステップを生成し、完全な推論プロセスを形成する方法です。この方法は、人間が複雑な問題を処理する際の自然な推論プロセスを模倣しており、具体的な推論手順の例を明示的に示すことで、モデルが多段階の推論タスクを理解し、実行しやすくすることを目的としています。例えば、「ロジャーは最初にテニスボールを5個持っています。彼はさらに3個入りの筒を2つ買いました。今、ロジャーが持っているテニスボールの数は何個ですか?」という数学問題に対して、従来の方法は単に「11」と答えるかもしれませんが、CoTでは「ロジャーは最初に5個のボールを持っており、3個入りの筒を2つ買ったので、6個を追加しました。5 + 6 = 11なので、答えは11個です」という詳細な推論過程を示します。

本論文は複数の実験を通じてCoTの有効性を検証しています。算術推論タスクでは、PaLM 540Bモデルを用いて、わずか8つのCoTの例示を与えることで、GSM8K数学問題ベンチマークにおいて当時最高の性能を達成し、従来のプロンプト法を大きく上回りました。さらに、常識推論(例えばCommonsenseQA、StrategyQA)でもCoTが優れた性能を示しています。具体的には、CommonsenseQAタスクは「梨を水に入れると沈むかどうか」など、現実の知識を統合した推論を求めます。また、StrategyQAタスクは多段階の戦略的推論を必要とし、特定の行動の妥当性を判断します。さらに、記号推論タスク(例えば文字の連結やコインの裏表の推論)でも、モデルが未経験の、より長い入力に対しても、CoTの優れた汎用能力が示されています。

本論文の結論では、チェイン・オブ・ソート法は単純かつ効率的で追加訓練が不要な方法であり、わずかな自然言語の例示だけでLLMの推論性能を大きく向上させることができると述べています。この能力はモデルの規模拡大に伴って次第に顕在化し、複雑なタスク処理能力の向上に寄与しています。一方で、著者らはCoTが推論プロセスの説明性を提供する一方、生成された推論経路が常に正しいとは限らないことを指摘しています。そのため、将来的にはモデルが生成する推論経路の正確性や信頼性を高める研究が重要であるとしています。また、著者らは、モデルの規模拡大が推論能力のさらなる向上をもたらすか、また他のプロンプト技術がモデルの応用範囲を広げる可能性があるかなどの未解決の課題も提起しています。

以下は、本論文に対する私の感想です。
この論文は非常に価値のある研究であり、チェイン・オブ・ソート(CoT)の方法を詳しく説明し、多くの実験結果によってその有効性を証明しています。現在商用化されているLLM(例えばGPT-4o)はパラメータ数が約200Bほどであり、幅広い知識基盤と汎用的な能力を持っていますが、複雑な問題に対する効果的な指導方法は依然として重要な課題です。従来のファインチューニング(Fine-tuning)法は特定領域での性能向上が可能ですが、多くの計算資源や時間を必要とするという問題があります。それに比べて、CoTは少数の例示でモデルの汎用推論能力を効率よく引き出し、大きくコストを削減できる点で、極めて有用な手法です。例えば、教育工学の研究では、CoTを参考にし、少ないリソースでLLMの性能を効果的に向上させることが可能であり、従来の専門的ファインチューニング法よりもはるかに優れています。また、CoTの簡便性により研究者が様々な実験を行いやすくなり、時間と経費を大幅に節約できます。さらに、論文の実験設計を参考にすることで、具体的な教育工学研究の場面でLLMの性能を向上させる方法を学ぶことができます。例えば、英作文の添削実験においても、CoTの形式を模倣し適切な例示を提供することで、より精度の高い修正提案をモデルから得られ、高品質な研究データを収集できます。さらに、CoTが持つ中間ステップ出力の特性により、解答プロセスの透明性や説明性が高まり、教育工学や実際の指導場面でより有効に活用できると考えられます。

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