九州大学 山田研究室

メリルの第一原理を用いた反転授業の設計に関する研究論文を読みました

2023年01月25日

皆さん、こんにちは。学術協力研究員のカクです。

今回の英語文献ゼミでは、授業デザインに関する論文を紹介しました。

インストラクショナルデザイン(ID:Instructional Design)は、それぞれの環境において、最適な教育効果をあげる理論とモデルのことを指します。今回は、「First Principles of Instruction」日本語訳は「IDの第一原理」といいますが、その手法を使用した反転授業をデザインした論文を紹介しました。

 

論文名:Applying “First Principles of Instruction” as a design theory of the flipped classroom: Findings from a collective study of four secondary school subjects
論文誌:Computers & Education 118 (2018) 150–165
Springer International Handbooks of Education
著者:Chung Kwan Lo, Chi Wai Lie, Khe Foon Hew
発行年:2018

 

下記に概要をまとめました。

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教育現場では、反転授業の普及が進んでいます。反転授業とは、授業前にビデオなどの教材を視聴し、ある程度の予備知識があれば、授業時間をフルに活用して問題解決やグループディスカッションなどの学習活動を行うことができる授業形態です。しかし、先行研究によると、反転授業の設計・実施の指針となる適切な理論的枠組みが不足していることや対照群を設置した効果測定が多く行われていないと指摘されています。本論文の目的は、Secondary schoolの授業をフィールドにIDの第一原理を用いて反転授業を設計し、対照実践を行うことです。

この研究は、2 段階で構成されています。まず、IDの第一原理を用いて、反転授業の主な指導活動を分析しました。IDの第一原理は5要素で構成されています。問題を中心にして、活性化、例示、応用、統合の順でコースを設計していきます。次に、教師がこれらの原則をどのように活用すれば、反転授業をよりよくデザインすることができるかを検証するために、実践研究を行いました。

実践は香港のSecondary Schools 2校で行なわれました。

第1段階は2週間のパイロットスタディです。パイロットスタディと先行研究から、従来の反転授業の改善点が4つ提案されました。

1.授業前に提供された関連する背景資料の必要性(活性化)

2.授業前に学んだ内容の簡単な確認とオンライン演習の必要性(活性化)

3.授業で難しいテーマを紹介し、教師がその問題の例を示す必要性(例示)

4.教室外での学習目標(基礎)と教室内での学習目標(応用)を区別すべきこと

先行研究、上記のパイロットスタディに基づいて、作者らは以下のモデルを提案しました。論文中では図で示されています。ここでは、このモデルの簡単な概要を説明します。授業外、授業内ともにIDの第一原理を用いて設計されており、授業外では活性化と例示が含まれて、授業内ではすべての要素が含まれています。ご興味のある方は、ぜひ論文に掲載されているモデル図をご覧ください。

授業外

1.事前ビデオ内容

活性化:新しい知識を学ぶための基礎として必要な背景資料を用意する

例示:新しい知識の例を挙げて紹介する

2.オンラインフォローアップ演習

活性化:学生はビデオ講義で学んだ新しい知識を応用し、簡単な問題を解く

例示:学生が回答した問題に対して、フィードバックを行い、学習を誘導する

授業内

問題中心

現実の問題解決に取り組む

1.授業外学習の振り返り

活性化:教室外で行われた学習の主要項目を確認する

2.ミニディダクティック講義

例示:教室外では紹介されていない高度な学習項目を紹介する。教師が学生を巡回し、必要な指導を行う

3.問題解決活動

応用:学習した内容を応用し、様々な問題を解決する

統合:問題解決への取り組みを共有し、議論する

以上を踏まえ、第2段階は、382人の学生(flipped=207; non-flipped=175)と5人の教師が参加した実践研究が行われました。科目は、数学、物理、中国語、情報技術でした。反転授業担当の教師は、提供されたモデルに従って、授業をデザインします。

授業の設定は以下の通りです。

非反転授業(対照群)について

・数学、物理、中国語の授業では、25分間が講義とディスカッションなどに使われ、残りの時間は宿題と個別指導に費やされました。

・ICTの授業では、演習形態が多く取られていました。

反転授業(実験群)について

・授業前の学習

1.ビデオ:6~8分、1~3セグメントの視聴(活性化、例示)

2.オンライン質問(応用)、フィードバック(例示)

・教室での学習

1.オンライン学習コンテンツの見直し(活性化)

2.総合的な学習プロジェクトの指導(例示)

3.個人とグループの学習活動(応用)、問題解決(問題中心)。

4.問題が起きたら話し合う(統合)、教師の助言を求める(例示)

収集したデータは、テストスコアと教師への半構造化インタビューから構成されています。

データを分析した結果、物理、数学、言語の3教科すべてにおいて、反転授業は非反転授業よりも学習成果の面で有意に成績を向上させたことが明らかになりました。教師のインタビューの分析から、が有効であることがわかりました。しかし、ICT授業の成績については、有意な差は見られなかったです。その理由として考えられるのは、非反転授業の教師が、授業に実践的な活動を取り入れたことです。つまり、情報技術の授業においては反転授業、非反転授業ともに、よりインタラクティブな授業が行われていたことが影響したのではないかと本論文では解釈されています。学習成果は、単なる授業内容の反転ではなく、アクティブ・ラーニング的な教育・学習方法の成果である可能性があります。最後に、教師には準備期間が必要なこと、学生には授業前の学習意欲が必要なことという2つの課題があることが依然して残ることが指摘されていました。

私自身のこの論文に対する感想は、このような規模の統制された実践的な研究は珍しいということです。学生の成績の分析だけでなく、教師へのインタビューも実施し、今後のIDの第一原理を用いたコース設計の改善に大いに役立つと考えています。しかし、一点だけ疑問なのは、対照群と実験群の設定です。対照群は非反転授業、実験群はIDの第一原理を用いて設計された反転授業です。では、実践の効果はどのように区別すればよいのでしょうか。反転授業がうまくいったのか、IDの第一原理の設計がうまくいったということなのでしょうか?反転の特徴と第一原理の特徴、何がどうなったのか、不明な点が残っています。なかなか操作的にコントロールすることが難しいと思うのですが、論文としてはここはどうだったのか、気になるところです。これから自分は実践を検証するときは、このような問題点も配慮しながら行います。

 

 

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