九州大学 山田研究室

自己調整学習意識喚起に対するアダプティブ・ラーニング×ダッシュボードの有効性

2022年12月20日

皆さん、こんにちは。D3の耿学旺です。

今回、私が英語文献ゼミで読んだ論文を紹介したいと思います。下記、論文中で書かれている内容の概要になります。

論文タイトル:Adaptive or adapted to: Sequence and reflexive thematic analysis to understand learners’ self-regulated learning in an adaptive learning analytics dashboard
論文誌:British Journal of Educational Technology
ページ:1-28
出版年:2022
著者:Eunsung Park, Dirk Ifenthaler, Roy B. Clariana

ICTの発展に伴い、自己調整学習を支援するソリューションが増えています。そのなか、1つのソリューションとして、LA(ラーニングアナリティクス)が挙げられます。LAは学習者の学習を理解し最適化するため、学習者とその学習環境に関するデータの測定、収集、分析、報告するものと定義されています(Siemens& Long, 2011)。LAを用いることで、
・学習状況のコントロールとモニタリングの支援
・リフレクションと学習関与へのアウェアネスの促進
・モチベーション、学習経験、リテンション率の向上
などが可能となることが報告されています。

しかし、多くのLA研究は学習パフォーマンスの促進と予測モデルに焦点を当てて、LAを用いることがなぜ効果的なのかには十分調査されていないと著者らは指摘しています。そこで、LAを活用した介入によって、学習者は自己調整学習において、行動的・戦略的にどう変化しているかを明らかにする必要があります。さらに、学習者の視点からどのようにLAを使用して、学習がどのように行われるかを把握すべきだろうとしています。今回選んだ論文では、著者らはアダプティブ・ラーニングアナリティクス・ダッシュボード(ALAD)を設計して、学習者がALADでどのように学習を開始し行うかに焦点を当てて、ALADと相互作用する際の学習者の学習経験と認識について調査しました。

この研究のALADに関しては、各授業の最初にウォームアップテスト(WU、予備知識テスト)を設けました。学習者が WU テストを受けた後、テストの得点は個人の ALAD に反映されます。ALAD では、WU テストを受けるかどうか、およびテストの得点によって、学習者がアクセスできるコンテンツの数が異なります。そして、学習者はALADから、今の学習状況、費やした時間、各授業を完了するまでの残り時間などの情報を確認できます。また、学習者は次に学習すべきコンテンツをALADから提案されます。

学習者がALADにおいて学習者がどのように学習をしていたかを調査するために、81名のファイナンスコースの受講者を対象に1学期間の実験が実施されました。授業は毎週2回の対面授業と、ALADによるオンライン学習で構成されます。実施期間内、すべての学習者とALADとの相互作用が記録されました。また、12名の学習者に対して、2時点のインタビューが行われました。

その結果、WUテストの使用についてクラスター分析によって分類された3つのグループが特定されました:WUテストを中心に使用したWUグループ、コンテンツの学習を中心にしたコンテンツグループと、WUテストとコンテンツの学習を時間的により均等にしたミックスグループです。そして、シーケンス分析をした結果、3つのグループの学習順序について差が認められました。WUグループの学習者は、各授業の開始時にWUテストを受けて、コンテンツを学習しましたが、コンテンツグループはWUテストをスキップして、コンテンツに時間をかけて学習しました。さらに、リフレクティブ主題分析の結果から、学習者がどのようにALADの機能を使用して学習ストラテジーを構築したか、どのように学習のモニター・コントロールを行ったかについて洞察が得られました。特に、WUテストが学習目標の達成に有用であるかどうかといった意識の違いから、異なるALADの使用が生じたことが示唆されています。例えば、WUグループは、自分の目標(高いスコア)を達成するための手段として、テストを利用するようになり、テストを最大限に活用する学習ストラテジーを構築しました。それに対して、コンテンツグループは、テストが目標の達成に有用ではないことを認識し、テストを受けずに学習コンテンツを進めるという異なる学習ストラテジーを行っていました。なお、この論文は、ダッシュボードのデザイン上のいくつかの注意事項を提唱しています。
・リコメンデーション機能は、テストの正誤によるデータ駆動型の提案よりも、インストラクターや教師から学習者の学習中に必要とするものを予め考案して提案する方が良い
・テストは複数回で受験可能な場合、無意味な試行錯誤を避けるため、学習者にテストの追加リソースと代替リソースを提供する必要がある

私の感想ですが、この論文では、リフレクティブ主題分析を用いることで、学習者のダッシュボードの利用が学習行動と戦略に及ぼす影響といった質的評価の部分が、現在私が取り組んでいる研究の分析手法として大変参照になりました。しかし、本論文は全体的にダッシュボードをどう使用して自己調整学習を支援するを議論してきましたが、ダッシュボードが自己調整学習をするためにどのようにデザインされたかは気になるところです。また、具体的な学習行動を踏まえた考察があれば、より興味深いものになると思います。例えば、学習者はダッシュボードの何の情報を確認してから、次のコンテンツの学習やWUテストに進むかを調査する必要があると感じました。今後、私自身の研究では、より細かい粒度でダッシュボードの機能が学習行動に与える影響について探究していきたいと思います。

PAGE TOP