皆さん、こんにちは。学術協力研究員のカクです。
今回の英語文献ゼミの論文をご紹介いたします。
以前の記事でも紹介しましたが、私の研究では、日本語教育の授業改善に重点を置いて、CLILという授業形態に着目して研究を進めています。そこで、今回の英語文献ゼミでは、CLILの授業形態を実施できる教員育成に関する論文を読んだので紹介いたします。
論文タイトル:The effect of telecollaboration in the development of the Learning to Learn competence in CLIL teacher training
論文誌:Interactive Learning Environments, 29(6), 973-986.
著者:Garcia-Esteban, S., Villarreal, I., & Bueno-Alastuey, M. C.
発行年:2021
まず、この論文の内容を簡単に紹介します。
多くの研究者が教師のLearning to Learn(LtL)の育成を提唱していますが、これらの能力は測定が難しく、介入策がこれらの能力に与える影響を分析することは困難であることを示唆しました。さらに、大学の高等課程を修了しても、LtLは必ずしも向上しないことも指摘されています。そこで、LtLの能力を育成するための新しいアプローチを提案する必要があります。社会の発展に伴い、生涯学習の重要性も認識されるにつれ、LtL能力を身につけることがますます重要になります。将来、生徒によりよい指導ができるようになるためには、まず教師自身がその能力を身につける必要があるとしています。本論文はCLIL教員養成にという文脈において、教員教育におけるLtLコンピテンシー育成におけるTelecollaborationツールの効果に焦点を当ていました。 LtL能力とは、この論文内ではメタ認知能力と呼ばれる自分自身の思考や学習プロセスをコントロールする能力が強調された、自己主導的、自己規制的、意図的な学習の結果として、人生や仕事の質を向上させる能力としており、この論文に使った測定の質問紙は、Fredriksson(2013)がLtLの定義に基づいて開発したものを使用しています。
実践の参加者はスペインの2つの大学の教員研修生で、対照群(53名)と実験群(47名)に分けられました。両群の学生は、授業内容は教育工学のCLILコースを受講し、実験群の学生はTelecollaborationツールを使って対照群と同じ学習課題をこなしました。具体的には、対照群では、教師と学生が対面式の授業を行われましたが、一部の課題は教室外の小グループでオンライン作業することが求められました。実験群では、学生たちは、2回の遠隔コラボレーションと、対照群と同じテクノロジーを使った一連の対面タスクからなる遠隔コラボレーションプロジェクトに参加しました。教育工学のCLIL授業におけるTelecollaborationツールがLtLの育成に与える影響を、事前と事後の質問紙を比較することで評価しました。質問紙はFredriksson(2013)のコンピテンシーに関する測定法をベースに作成され、「なぜ学ぶのか」「何を学ぶのか」「どのように学ぶのか」「学習プロセスについてのリフレクション」の4つの領域について、それぞれ4つのレベル(L1〜L4)に分けて行われました。European Commission(2012)ではLtLのレベルについて下記のように整理されています。
4つの領域の4レベルの説明(European Commission, 2012)
その結果、両大学ともすべての項目で中程度の改善が見られ、対照群ではレベル2の「どのように学んだか」で+12.6%に達ちました。コース後、「何を学んだか」の項目で5%のマイナスを示したが、それ以外の項目で実験群が対照群の結果をわずかに上回りました。その結果を踏まえ、著者らはTelecollaborationツール学習の体験はICTに関する授業内容よりも強い影響があると指摘されました。これは、体験型学習(experiential learning)がメタ認知を高めることに起因していると主張しており、Telecollaborationツールが学習者のLtL育成に寄与していることが明らかになったとしています。。
最後に自分の感想ですが、直接的にCLILの授業設計に関わる内容ではなかったですが、この論文の冒頭で述べたように、LtLのような抽象的な能力を測定し評価することは困難ですが、必要だと思います。本論文では、実際のコース実施において実験群と対照群を設定し、TelecollaborationツールがLtLに及ぼす影響を分析し、今後の研究へのヒントになると思いました。ただし、今回は質問紙のデータしか収集していないので、アンケートの結果を説明するために、もっと詳細なデータがあったほうがよかったかもしれないです。評価が難しいというのは確かですが、それで従来の方法である質問紙ということでいいのかどうかというのもちょっと不思議に思ったところです。例えば、異なるグループとの共同作業中の会話の分析や、授業観察などです。この論文で得られた、より抽象的なコンピテンシー評価の側面に関する知見は、今後の私自身の研究に生かしていきたいと考えています。