九州大学 山田研究室

AIは中国語の「話す力」を伸ばせるのか―初級学習者によるAIの使い方と意識に注目して

2026年06月29日

みなさん、こんにちは。研究生の李です。ここでは、先日の英語文献ゼミにて読んだ論文を紹介させていただきます。

タイトル:Unpacking AI-supported Chinese as a foreign language learning: How beginner-level learners’ cognitive and motivational factors predict speaking proficiency
• 著者: Jie Zhang , Xiaosheng Zhou, Ying Soon Goh
• 掲載誌:Acta Psychologica(2025年)
• DOI:https://doi.org/10.1016/j.actpsy.2025.105703

1. 研究背景と理論的枠組み
この論文は、AIを使った中国語学習において、初級学習者の考え方やAIの使い方が、スピーキング力とどのように関係しているのかを調べた研究です。

近年、ChatGPTのような生成AIは、外国語学習の中で急速に使われるようになっています。AIを使うことで、例文作成、翻訳、単語説明、発音練習、台本作成、会話練習など、さまざまな学習支援が可能になります。しかし、AIを使えば自動的に学習効果が高まるわけではありません。重要なのは、学習者がAIをどのように受け止め、どのように活用するかです。

この研究では、Technology Acceptance Model(TAM:技術受容モデル)という考え方が用いられています。これは、人が新しい技術を使うとき、その技術をどのように評価し、受け入れるのかを説明するモデルです。本研究では、特に「AIが役に立つと思うか」「AIを使いこなせる自信があるか」「AIをどの程度信頼しているか」「AIを使うことに前向きかどうか」という4つの要素に注目しています。

また、この研究の学習活動は、単なる知識確認ではなく、実際に中国語を使って表現する活動を中心としています。学習者はグループで役割劇の台本を作り、それを中国語で発表します。そのため、AIが台本作成だけでなく、実際のスピーキング力にどのように関係するのかが重要な問題となっています。

2.研究課題
この研究では、主に3つの課題が設定されています。

第一に、AIへの信頼、AIが役に立つという意識、AIを使いこなす力、AI使用への前向きな態度が、中国語のスピーキング力とどのように関係しているのかを明らかにすることです。
第二に、これらの要素の中で、どの要素がスピーキング力と最も強く関係しているのかを調べることです。
第三に、AIの使用が、台本作成の成績と口頭発表の成績にそれぞれどのように関係しているのかを検討することです。

つまり、この研究の中心は、単に「AIを使ったかどうか」ではありません。むしろ、学習者がAIをどのように考え、どのように使ったのか、そしてその使い方が中国語の発表能力とどのようにつながっているのかを明らかにしようとしています。

3.研究方法
この研究では、数字を用いた分析と、インタビューなどを用いた分析の両方が行われています。まず、アンケートや成績データを使って、AIに対する学習者の考え方と中国語の成績との関係を調べています。そのうえで、インタビュー、学習者が作成した台本、教師の観察記録などを用いて、数字だけではわからない学習過程を詳しく見ています。

研究参加者は、マレーシアの大学で中国語を学ぶ初級レベルの学生120名です。参加者は全員、中国語を母語としない学習者であり、何らかのAI言語学習ツールを使った経験を持っていました。

授業では、第1週から第12週まで、AIを使った語彙練習、口頭練習、会話活動などが行われました。第13週から第14週には、グループで役割劇の台本を作成し、第15週から第16週には、その台本をもとに中国語で発表しました。最後に、AI使用経験に関するアンケート調査が行われました。

学習者は、特定のAIツールの使用を義務づけられていたわけではありません。ChatGPT、翻訳アプリ、発音フィードバックツール、AI文章作成ツールなどを、自分の判断で使用していました。

中国語の口頭能力は、発表をもとに評価されました。評価項目には、発音、イントネーション、話すなめらかさ、語彙や文法の正確さ、表現力、課題を達成できているかどうかなどが含まれています。最終成績は、口頭発表が75%、台本作成が25%の割合で評価されました。

4.主な結果
分析の結果、AIに関する4つの要素はいずれも中国語のスピーキング力と関係していることがわかりました。特に重要だったのは、AIを使いこなす力です。AIをうまく使える学習者ほど、口頭発表でも高い成績を示していました。

成績の高い学習者は、AIが出した答えをそのまま使うのではなく、自分で内容を確認し、必要に応じて修正し、自分のレベルに合う形で活用していました。つまり、AIを「答えを出してくれる機械」としてではなく、「学習を助けてくれる道具」として使っていました。

また、AIを使うことに前向きな学習者や、AIが中国語学習に役立つと感じている学習者も、より積極的に課題に取り組む傾向がありました。その結果、学習成果も高くなる傾向が見られました。

一方で、AIへの信頼については、少し意外な結果が示されました。AIを信頼しすぎる学習者は、必ずしも高い成果を示していませんでした。これは、AIの答えをそのまま正しいと思い込むことで、自分で考えたり確認したりする機会が減ってしまうためだと考えられます。

さらに、AIの使用は台本作成の成績とは強く関係していました。AIは、単語選び、文の構成、内容整理などを助けるため、台本作成には大きく役立っていました。しかし、AIの使用と実際の口頭発表の成績との関係は、それほど強くありませんでした。つまり、よい台本を作る力と、実際に中国語で話す力は、必ずしも同じではないということです。

5.質的分析の結果
インタビューや教師の観察からは、学習者のAI使用にはいくつかの特徴があることがわかりました。

まず、成績の高い学習者は、AIの答えを批判的に見ていました。AIが作った文をそのまま使うのではなく、意味を確認し、自分が話せる表現に直していました。このような学習者は、AIを上手に利用しながらも、最終的には自分の言葉として中国語を使おうとしていました。

一方で、成績が低い学習者の中には、AIが作った文をそのままコピーする人もいました。その場合、台本は一見よくできていても、本人が内容を十分に理解していなかったり、発音できない単語を使ってしまったりする問題が起きていました。

また、AIが作る表現が初級学習者には難しすぎる場合もありました。難しい文をそのまま暗記すると、発表では不自然になったり、即興の質問に答えられなかったりします。この点からも、AIの出力をそのまま受け入れるのではなく、学習者のレベルに合わせて調整することが必要です。

6.考察
下記は著者らの考察です。この研究からわかる重要な点は、AIは外国語学習を支援する便利な道具ですが、その効果は使い方によって大きく変わるということでした。AIを効果的に使う学習者は、AIを「正解を出す機械」としてではなく、「学習を支える道具」として使っていました。AIを使ってアイデアを得たり、単語や文型を確認したりしながら、最終的には自分の言葉に直している様子が見られたということです。

一方で、AIに頼りすぎると、自分で考える力や表現する力が十分に育たない可能性があります。特にスピーキング学習では、台本を作るだけでは不十分です。実際に声に出して練習すること、発音を確認すること、即興で答える練習をすること必要性も指摘しています。

したがって、AIはスピーキング学習を助けることはできますが、AIだけで話す力を伸ばすことは難しいと考えられます。教師の支援、クラスメートとの練習、フィードバック、発音練習などと組み合わせることで、より効果的な学習につながると考えらるとしています。

7.教育的示唆
この研究は、中国語教育でAIを導入する際には、学生に自由に使わせるだけでは不十分であることを示しています。教師は、AIの使い方そのものを指導する必要があるということでした。

具体的には、AIが出した答えをそのまま信じないこと、自分のレベルに合っているかを確認すること、難しすぎる表現をやさしい表現に直すこと、自分で発音できる文にすることなどを教える必要性を指摘しています。。

また、AIは台本作成や作文には役立ちますが、スピーキング力を伸ばすためには、実際に話す練習と結びつけることが重要だと主張しています。AIを使った後に、発音練習、ペアワーク、教師からのフィードバック、即興応答の練習を取り入れることで、より実践的な力につながるとしています。

8.研究の限界と今後の課題
著者らはいくつかの限界を挙げています。第一に、研究対象がマレーシアの1つの大学に限られているため、結果を他の国や教育環境にそのまま当てはめることはできない点。第二に、対象者は初級学習者であるため、中級・上級の学習者にも同じ結果が当てはまるかどうかは、今後さらに検討する必要がある点。第三に、授業開始前の中国語能力が十分に測定されていないため、学習者のもともとの能力差を完全には把握できていない点でした。

今後は、異なる国や地域、異なる中国語レベル、異なるAIツールを対象にした研究が必要ということでした。また、学習者が実際にAIを何回使ったのか、どのように質問したのか、AIの答えをどのように修正したのかといった、より細かい学習過程を調べることも重要だということです。

9.この論文を選んだ理由
私がこの論文を選んだ理由は、AIを使った中国語スピーキング学習というテーマが、自分自身の教育実践や研究関心と深く関係しているからです。

本論文は、AIを単なる便利なツールとして見るのではなく、学習者の考え方、態度、学習行動と関係するものとして分析している点が参考になります。特に、AIをどのように使えばスピーキング力の向上につながるのか、またどのような使い方が問題になるのかを考えるうえで、多くの示唆があります。

AIはあくまで学習を支援する道具であり、教師の役割は今後も重要です。その意味で、この論文は、AI時代の中国語スピーキング教育を考えるうえで、非常に参考になる研究です。

文責:李娜

PAGE TOP