九州大学 山田研究室

生成AIにどのタスクを任せるべきか – 英語ライティング学習におけるタスク・オフローディングの効果

2026年08月03日

みなさん、こんにちは。博士課程の田中です。この記事では先日の英語文献ゼミにて読んだ論文を紹介させていただきます。

論文タイトル: What task to offload to GenAI in the writing feedback process? – Effects of task-offloading approaches on EFL learners’ writing skill development
(ライティング・フィードバックの過程において生成 AI にどのタスクを任せるべきか
ータスク・オフローディングアプローチが、EFL 学習者のライティングスキル向上に与える影響)
著者: Chun Lai, Mengru Pan, Kai Guo, Yaqiong Cui
掲載誌: Computers & Education, 252, 105675(2026年)

1. 背景
• 生成AIフィードバックの可能性と課題
生成AIは、英語ライティング学習において、即時的かつ個別化されたフィードバックを提供できる可能性を持っています。一方、筆者らは、生成AIの出力には不正確さや文脈に合わない助言などが含まれる場合があり、また、学習者が生成AIの提案をそのまま受け入れると、自分で文章を評価し、問題点や改善方法を考える機会が減る可能性があると指摘しています。

• タスク・オフローディングとは
この研究が注目している「タスク・オフローディング」とは、学習者が本来行う認知的作業の一部を、外部の道具や環境に任せることを指します。ライティングには、ドラフト作成、評価、問題発見、改善案の検討、修正などの作業がありますが、筆者らは、どの作業を生成AIに任せるかによって、学習者が行う思考の内容や深さが変わる可能性があると述べています。先行研究では、学習者が文章を書き、生成AIが評価と修正案を提示する方法が多く検討されてきました。しかし、この方法では、文章を評価するという重要な認知的・メタ認知的作業まで生成AIに任せることになります。そこで本研究では、ライティングの過程の「どのタスクを生成AIに任せるか」に焦点を当て、ライティングスキルなどへの影響を検証しています。

2. 研究の目的
研究目的は、ライティング・フィードバックの過程において、どのタスクを生成AIに任せることが学習者のライティングスキルの発達に効果的であるかを明らかにすることです。また、異なるタスク・オフローディングの方法によって、学習者の認知的エンゲージメント、メタ認知、自己効力感にどのような違いが見られるかについても検討されています。
この研究におけるリサーチ・クエスチョンは、以下の2つです。
RQ1: ライティング・フィードバックの過程で生成AIに任せるタスクの違いは、EFL学習者のライティングスキルの発達にどのような影響を与えるか。
RQ2: 生成AIに任せるタスクの違いによって、学習者の認知的エンゲージメント、メタ認知、自己効力感にどのような違いが見られるか。

3. 研究の方法
この研究は、中国の大学に在籍する英語専攻の学部生101名を対象に、論証文を書くライティング授業で実施されました。参加者の英語力は中級程度でした。参加者は、次の3条件に分けられました。
• 条件1: 生成AIがドラフトを作成し、学習者がそれらの文章を評価・修正する。
• 条件2: 学習者がドラフトを書き、生成AIがフィードバックを提供し、学習者が修正する。
• 条件3: 生成AIを使用せず、学習者がドラフト作成、自己評価、修正を行う。
データとして、事前・事後ライティングテスト、自己効力感を測る質問紙、ピアレビューの課題、生成AIとの会話ログ、半構造化インタビューが用いられました。分析では、ライティングスキルの変化に加えて、生成AIとのやり取り、フィードバックの質、学習者の認識が検討されました。

4. 結果と考察
4.1 ライティングスキルと認知的エンゲージメント
分析の結果、生成AIを使用した条件1と条件2は、使用しなかった条件3よりも高いライティングスキルの伸びを示しました。最も高い伸びを示したのは、生成AIにドラフト作成を任せ、学習者が評価・修正した条件1でした。条件1の学習者は、条件2よりもAIと多く相互作用をし、説明、助言、具体例を求める学習目的のやり取りを多く行っていました。インタビューでも、条件1の学習者はAIが生成した文章を完成品ではなく、分析・評価の対象となる学習材料として捉えていたことが示されました。
一方、条件2では、AIからフィードバックを受けた後、学習者が自分で修正するのではなく、AIに直接修正を依頼する傾向が見られました。筆者らは、問題点を理解できても、自分の語彙力や表現力では修正方法が分からなかった可能性を指摘しています。

4.2 メタ認知と自己効力感
ピアレビュー課題では、条件1の学習者が、文章の問題点を特定する力で特に高い結果を示しました。筆者らは、AIが生成した文章を繰り返し評価する活動を通して、自分で問題を発見する経験を積んだためであると解釈されています。また、AIを使用した条件では、問題点の理由を説明し、改善案を提示する力にも効果が見られました。
自己効力感についても、条件1が最も高い結果を示しました。条件1の学習者は、AIが生成した文章を自分の判断で改善できた経験から、自分にも文章を改善する力があると認識していました。一方、条件2では、文章が改善されても、それが自分の能力によるものかAIの支援によるものか分からないという不安もインタビューで語られました。

4.3 生成AIに任せるタスクの重要性
筆者らは、条件1で高い効果が見られた理由として、AIが生成した文章をルーブリックに照らして詳しく読むことで認知的エンゲージメントが促されたこと、評価・修正を通してライティングやAIの限界に関するメタ認知が深まったこと、AIの文章を改善できた経験が自己効力感につながった可能性があると述べています。この論文では、生成AIは学習を支援する一方、使い方によっては学習者の思考を代替する可能性があると指摘されています。筆者らは、生成AIを単なる修正を代行するツールではなく、学習者が評価し、問い直し、改善する役割として位置づけることが重要であると述べています。

5. 結論と限界点
この研究では、生成AIをライティングの過程に組み込むことが、ライティングスキルの発達を促進する可能性が示されました。特に、生成AIにドラフト作成を任せ、学習者が評価・修正することは、認知的エンゲージメント、メタ認知、自己効力感の面でも高い効果を示したとされています。また、筆者らは、生成AIによる文章をルーブリックで評価する活動や、生成AIの修正案の妥当性を検討する活動を授業に取り入れることを提案しています。
限界点としては、対象が中国の1つの大学の英語専攻の学生に限られることや、メタ認知をタスクを通して間接的に測定していること、外部の生成AIの使用を完全には統制できないことなどが挙げられています。

感想
この論文では、「タスク・オフローディング」という観点から、生成AIを評価やメタ認知を促す役割として設計する必要性が示されています。生成AIにフィードバックを任せることで、学習者自身が文章を評価し、問題点や改善策を考える機会が減る可能性があるという指摘は重要であると考えます。一方で、教師が誤りを含む英文を提示する活動やピアレビューは従来から行われており、なぜ生成AIを用いる必要があるのかはやや曖昧に感じました。この活動を生成AIが担う必要性については、ゼミでも議論が行われました。また、本研究は英語専攻の学習者を対象としているため、より習熟度の低い学習者にも同様の効果が得られるのかは明らかになっていません。条件1のようなタスクを実施する場合、学習者のレベルに合った文章を生成することに加え、明確で理解しやすいルーブリックを用意する必要もあると考えます。

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