みなさん、こんにちは。研究生の李です。ここでは、先日の英語文献ゼミにて読んだ論文を紹介させていただきます。
タイトル:Development and Validation of the Speaking Strategy Inventory for Learners of Chinese (SSILC) as a Second/Foreign Language
• 著者: Peijian Paul Sun,Lawrence Jun Zhang,Susan M. Gray
• 掲載誌:The Asia-Pacific Education Researcher(2016年25(4)593–604)
• DOI 10.1007/s40299-016-0287-0
外国語を上達させるためには、単に授業を受けたり、単語や文法を覚えたりするだけではなく、「どのように学ぶか」を意識することが重要です。学習者が外国語能力を高めるために行う具体的な工夫や行動は、「言語学習方略」と呼ばれています。
今回紹介する研究は、第二言語または外国語として中国語を学ぶ人が、話す力を伸ばすためにどのような方略を使っているのかを測定するための尺度を開発したものです。この尺度は、SSILC(Speaking Strategy Inventory for Learners of Chinese)と名付けられました。
1.研究背景
これまで、外国語学習方略については多くの研究が行われてきました。しかし、その多くは英語学習者を対象としており、中国語学習者のスピーキングに特化した尺度は十分に整備されていませんでした。また、既存の尺度には、調査対象者が少ない、尺度の開発手続きが明確でない、信頼性や妥当性の検証が不十分であるといった課題もありました。
本研究では、スピーキング方略を、会話中に分からない言葉を言い換えるといった、その場の問題解決だけに限定していません。新しい語や表現を声に出して練習すること、重要な表現を復習すること、話す内容を事前に考えること、会話相手に助けを求めることなども含めています。つまり、実際に話している最中の行動だけでなく、話す力を高めるための準備や日常的な練習も、スピーキング方略として捉えています。
2.研究目的
本研究の主な目的は、中国語学習者が使用するスピーキング方略を測定するための尺度を開発することです。また、作成した尺度がどのような構造を持つのかを明らかにし、その信頼性や妥当性を統計的に検証することも目的とされています。
さらに、この尺度を利用することで、教師が学習者の方略使用の特徴を把握し、必要な指導を行えるようにすることも目指しています。学習者自身にとっても、自分が普段どのような方法でスピーキングを学んでいるのかを振り返るための手段になります。
3.研究方法
研究では、先行研究を参考にしながら、中国語学習の状況に合わせた20項目の質問紙が作成されました。回答者は、それぞれの行動が自分にどの程度当てはまるかを、5段階で回答します。質問項目については、中国語母語話者の大学院生、上級中国語学習者、中国語第二言語研究の専門家が確認し、内容や表現の適切さが検討されました。
調査は二段階に分けて実施されました。第1段階では、北京の三つの大学で中国語を学ぶ学生に質問紙を配布し、224名分の有効回答を分析しました。そして、複数の質問項目に共通する特徴を見つけるために、探索的因子分析を行いました。
この分析では、特定の傾向との関係が弱い項目、複数の傾向に同時に関係する項目、内容が重複している項目などを削除しました。その結果、20項目から6項目が削除され、最終的に14項目が残りました。
第2段階では、別の中国語学習者を対象に調査を行い、118名分の回答を用いて確認的因子分析を実施しました。これは、第1段階で得られた分類が、別の学習者集団にも当てはまるかを確認するための分析です。探索と検証に異なる学習者のデータを使用している点は、本研究の重要な特徴です。
4.研究結果
分析の結果、中国語学習者のスピーキング方略は、三つに整理されました。
第一は「表現練習方略」です。新しい語や表現を定期的に復習する、有用な表現を書き留める、新しい表現を一人で声に出して練習するといった行動が含まれます。自分で繰り返し練習し、実際の発話で使用できる語や表現を増やしていく方略です。
第二は「母語話者志向・会話参加方略」です。中国語母語話者の表現方法を意識する、母語話者と話す機会を探す、発話内容を事前に計画する、質問をして積極的に会話へ参加するといった行動が含まれます。実際の交流を通して、より自然な中国語表現を身につけようとする方略だといえます。
第三は「援助方略」です。適切な語が分からないときに別の表現を使う、会話相手に助けや訂正を求める、身振りを使って意味を伝えるといった行動が含まれます。会話中に問題が生じても発話を諦めず、他者や代替表現を利用しながらコミュニケーションを続けるための方略です。
確認的因子分析では、最初の分析結果に一部改善の必要がありましたが、モデルを修正した結果、三つの方略からなる構造は許容可能な基準に達しました。また、それぞれの方略を測定する項目についても、一定の信頼性が確認されました。
さらに、三つの方略と、学習者が自己評価した中国語スピーキング能力との関係も分析されました。その結果、「表現練習方略」を頻繁に使用する学習者ほど、自分のスピーキング能力を高く評価する傾向が見られました。一方、「母語話者志向・会話参加方略」と「援助方略」については、自己評価によるスピーキング能力との明確な関連は確認されませんでした。ただし、この結果だけから、表現練習によってスピーキング能力が直接向上したと断定することはできません。今回の研究では、実際の口頭試験や教師評価ではなく、学習者自身の自己評価によってスピーキング能力を測定しているためです。
5.研究の限界と今後の課題
本研究の参加者の多くは、中級以上の中国語学習者でした。そのため、初級学習者にも同じ三つの方略が当てはまるかは明らかではありません。また、調査対象者の人数も比較的限られており、異なる国や地域の学習者にも同じ結果が見られるかについては、さらに検証する必要があります。
今後は、初級・中級・上級など、異なる習熟度の学習者を対象として調査を行う必要があります。また、自己評価だけでなく、中国語口頭試験、教師による評価、実際の発話データなどを用い、方略使用とスピーキング能力との関係をより客観的に検証することが求められます。
6.教育への示唆
本研究の教育的な意義は、教師が学習者に対して、具体的な「話すための学び方」を指導できる点にあります。例えば、新しい語や表現を声に出して繰り返す、役に立つ表現を記録して実際の発話で使用する、話す内容を事前に準備する、分からない言葉を別の表現に置き換える、相手に助けや訂正を求めるといった活動は、授業の中でも取り入れることができます。外国語を話す際には、すべての語や文法を正確に知っている必要はありません。分からない言葉を言い換えたり、相手の助けを借りたりしながら会話を続けることも、重要なコミュニケーション能力です。学習者が自分の使用している方略を理解し、必要な方略を意識的に選べるようになれば、中国語を話すことへの自信や自己効力感を高めることにもつながると考えられます。
7.この論文を参考にした理由
私がこの論文を参考にした理由は、中国語スピーキング学習に特化した尺度を開発し、学習者の具体的な学習行動を可視化しているためです。中国語教育において、学習者がどのような方略を使用しているのかを把握することは、学習成果だけでなく、そこに至る学習過程を理解するうえでも重要です。
特に、「表現練習方略」「母語話者志向・会話参加方略」「援助方略」という分類は、授業内外のスピーキング活動を設計する際の参考になります。教師は学習者に単に「もっと話してください」と求めるのではなく、表現をどのように準備するか、会話にどのように参加するか、困ったときにどのように対応するかを、具体的に指導できます。
また、私が現在関心を持っている中国語スピーキング学習の研究では、学習者が発話練習、フィードバック、自己修正、再発話をどのように繰り返すのかを可視化することが重要になります。本論文は、学習者のスピーキング能力だけでなく、その背景にある方略使用を質問紙によって把握しているため、学習過程を分析するための基礎的な枠組みとして参考になります。
一方で、SSILCは学習者の自己回答を中心とした尺度であり、実際の発話行動や修正過程を直接記録するものではありません。そのため、今後は質問紙による方略の把握と、録音データ、練習回数、フィードバックへの反応、再発話の変化などの行動データを組み合わせることが必要です。この点からも、本論文は、学習方略研究を実際のスピーキング学習過程の分析へ発展させるための重要な参考資料であると考えています。




