九州大学 山田研究室

潜在クラス分析を活用した協調学習におけるマルチモーダル学習パターンの解明

2025年04月28日

皆さん、こんにちは。

この記事では、今回の英語文献ゼミで読んだ論文とその感想について紹介します。

論文タイトル: From Complexity to Parsimony: Integrating Latent Class Analysis to Uncover Multimodal Learning Patterns in Collaborative
国際会議: LAK 2025: The 15th International Learning Analytics and Knowledge Conference
出版年:2025
ページ数:70-81
著者名: Lixiang Yan, Dragan Gasevic, Vanessa Echeverria, Yueqiao Jin, Linxuan Zhao, Roberto Martinez-Maldonado

この研究は、協調学習において、学習者の位置情報、音声、生理学的データを収集し、マルチモーダルラーニングアナリティクス(MMLA)を活用した分析を行っています。協調学習の理解には、言語的・非言語的相互作用や物理的・デジタルリソースの利用など、多角的な観点が必要です。従来のMMLA研究では、単一のモダリティに焦点を当てることが多く、複数のデータモダリティを統合した包括的な分析は限られていました。本研究はこの課題に対し、潜在クラス分析(LCA)を活用することで、異なるデータモダリティを統合し、より簡潔で説明力のある学習パターンの特定を行なっています。

研究方法として、医療教育を受ける56名の学生を対象に、医療シミュレーション環境でのチーム活動データを収集しました。データ収集の方法は非常に興味深く、3種類の異なるデータストリームを同時に捉えています。位置情報データはPozyx creator toolkitを使用し、学生の空間内の座標をリアルタイムに追跡し、教室内での正確な位置を継続的に記録しました。音声データはコンパクトなワイヤレスヘッドセットマイクで収集され、マルチチャンネルオーディオインターフェースを介して同じグループの学生の音声を同期させ、後に詳細な文字起こしと分析が行われました。生理学的データとしては心拍数が測定され、シミュレーション活動中の覚醒度と他の参加者との同期性を評価するために使用されました。

収集されたデータは、それぞれ異なる行動指標に変換されました。タスク行動では、シミュレーション環境内の異なるエリア(主要タスク空間、補助タスク空間など)での協調作業や個人作業、タスク間の移行などを測定しています。例えば、「主要タスク空間での協調作業」は、2人の学生が重要な医療処置を行うエリアで10秒以上1m以内にいる状態として定義されました。チームコミュニケーション指標では、音声データから「タスクの割り当て」「情報共有」「確認応答」など、医療チームに重要なコミュニケーションパターンが分析されました。生理学的指標は、心拍数の「同期性」(チームメンバー間の心拍パターンの相関)と「覚醒」(ベースラインを超える心拍状態)を測定しています。

異なるモダリティのデータを統合するために、著者たちは60秒間隔を分析単位として選択し、各モダリティのデータを同期化しました。タスク行動は10秒以上の継続を、コミュニケーション指標は60秒間隔内での少なくとも1回の発生を、生理学的指標は30秒以上の持続を基準として、各行動の「存在」「不在」をバイナリデータとして符号化しました。このアプローチによって、時間的に異なる粒度のデータを統一された形式で分析することが可能になりました。

分析の結果、4つの潜在クラスがそれぞれ独自の行動パターンを示していることが明らかになりました。「協調的コミュニケーション」はすべてのカテゴリの行動が存在する状態、「身体的協調」は言語的コミュニケーションが少ない協調作業、「遠隔的相互作用」は物理的に離れながらも言語的コミュニケーションを維持している状態、「個人的関与」は単独で補助的タスクに従事している状態として特徴づけられました。さらに、ENA(Epistemic Network Analysis)による分析では、4つのマルチモーダル指標モデルが複数のモノモダリティのデータよりも、タスクと協調活動の満足度の差異に関してより高い説明力を持つことが示されました。

以下は私の感想となります。本研究は、MMLAを用い、多様なデータソースの収集と処理について詳細な知見を提供しており、特に、位置情報、音声、生理学的データという異なるモダリティの同期化および統合方法は、実践的な研究設計において参考になります。さらに、LCAという手法を用いて複数のモダリティのデータから4つの主要パターンを抽出する手法も、新しい視点を提供してくれると思います。LCAを活用したモノモーダル指標からマルチモーダル指標への変換アプローチは、複雑なデータセットをわかりやすい形で解釈する上で革新的だと感じます。また、ENAという分析手法にも関心を持ちます。私自身はこの手法をまだ使ったことがないのですが、複数のデータモダリティ間の関係性を特定するのに強力なツールになりそうです。今後、自分の研究でもこうした手法を試してみたいと思います。興味深く思った点の一つは、本研究では、なぜジェスチャーなどの非言語的コミュニケーションデータが含まれていなかったのかということです。協調学習、特に医療シミュレーションのような身体的な活動が多い環境では、ジェスチャーや表情などのデータも重要な役割を果たすと思います。この点について、技術的な制約があったのか、それとも研究デザイン上の選択だったのか、もう少し詳しく知りたいと思います。この研究は複雑なマルチモーダルデータを統合する手法として、今後の協調学習の研究に重要な示唆を与えてくれると感じます。

文責:耿学旺

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