皆さん、こんにちは、研究生のチョです
この記事では、今回の英語文献ゼミで取り上げた論文の内容と私の感想について紹介します。
論文タイトル: The influence of student characteristics on the use of adaptive e-learning material
ジャーナル: Computers & Education
巻数とページ: Pages 942-952
出版年: 2012
著者名: van Seters, J.R., Ossevoort, M.A., Tramper, J., and Goedhart, M.J.
以下は、論文に記載されている内容の概要になります。
この研究は性別、年齢、国籍など属性データを収集し、動機付けと事前知識を測定することで学生グループの特徴を分析することを目的としています。ヨーロッパの大学が国際の学部・修士制度を導入して以来、ヨーロッパ内の学生の流動性を高くなっており、学生の年齢、国籍の多様性が増加している。本研究は生物学に関する事前知識を注目しており、多様な年齢、国籍、事前知識のレベル、性別、学習レベル(学部、修士)をもつ学生たちには個別最適化されたデジタル教材は有用であると考えられる。個別最適化されたデジタル教材の利点については時間のかかる個別指導にサポートすることをでき、一人ひとりのニーズに合わせた最適な学習経路をなどいくつかの研究が報告されているが、学生が自分の事前知識の違いに基づいた個別の学習経路を実際にたどっていることを示す実証的な証拠はほとんどない。また現実的な課題としてもコンピュータベースの学習環境(Computer-based learning environment CBLE)の開発コストが非常に高いため、個別最適化されたデジタル教材が、どのような状況で、どのような学生に効果的であるかを把握することが非常に重要である。CBLEに関する研究は、学生の自己調整学習の方法をより深く理解することにもつながる。本研究では、特に学生が個別最適化されたデジタル教材を使用する際に採用するSRL(自己調整学習)方略に焦点を当てている。SRLの中でもフィードバックに注目する。フィードバックとは、学生の行動に対する反応として生じる情報であり、学生が間違いや誤解を認識し、それを修正する方法を提供するために用いられるものである。効果的なフィードバックは、学生の自己調整能力を強化することができ、特に個別化されたフィードバックが有効とされているためである。
研究対象
参加者はワーヘニンゲン大学の学生で、94 名の学生が参加し、そのうち 86 名(91%)が事前テストを完了し、全員(100%)が個別最適化されたデジタル教材を使用し、80 名(85%)がアンケート調査を完了した。
アンケートを完了した80人の参加者のうち、55%が男性で45%が女性であった。学生(76%)が学部を受講しており、他の学生23%が修士を受講していた。アンケートを完了した学生の国籍は12カ国であり、75%はオランダ人であった。学部と修士の課程でオランダ人と国際学生の比率は異なった。学士課程の学生の90%がオランダ人であったのに対し、修士の学生22%がオランダ人である。学生88%が18歳から25歳の間で、学生12%は25歳以上である。
研究目的
本研究の目的は、学生の個々の特徴が、個別最適化されたデジタル教材を使用する際にたどる学習経路と使用する学習方略にどのように影響するかを調査することである。
研究課題
この研究にて利用された変数は、事前知識、学習レベル、性別、そして内発的動機である。事前知識は自己調整学習や問題解決へのアプローチに影響を与え、学習レベルは事前知識と関連している。性別はSRLや個別最適化されたデジタル教材に影響を与えるため、特性として選ばれた。学生の内発的動機は、SRLに大きな影響を与えると報告されている(Winne, 1995)。そこで下記のRQを設定した。
1.最適化されたデジタル教材は、学生が異なる学習経路をたどることで実現できるか?
2.学生の事前知識、学習レベル、性別、内発的動機は、彼らの学習経路にどのような影響を与えるか?
3.学生の事前知識、学習レベル、性別、内発的動機は、彼らが使用する学習方略にどのような影響を与えるか?
方法
この研究はProteusというシステムを使用する、このシステムは練習とフィードバック内容に最適化できる。学生の学習方略を追跡するため、(Winne ,2010)によりステップの長さという概念を提出した.ステップの長さとは問題の難易度が自ら選択すること、高(長ステップ)中(中ステップ)低(短ステップ)三つのステップがある。これから問題難易度の選択履歴は痕跡となる。追跡したデータ選択したステップの長さと必要な試行回数の関係である。
学生の事前知識を測定するために、事前テストを実施した。この事前テストの内容はこの最適化されたデジタル教材の学習目標である。またこの授業の参加者に対して事前テストによって事前知識を評価した。1から6点で評価し、5点または6点の学生はすでに学習目標を達成していると評価された。
質問紙調査、学習レベル、性別、内発的動機について(この内発的動機質問紙は、Intrinsic Motivation Inventory (McAuley et al., 1989)を基に修正され、インタビューを通じてその有用性が証明されている。)調査した。
結果
この研究はマン・ホイットニーのU分析とスピアマンの順位相関分析を実施した。学生の特徴と学習経路や学生の学習方略について分析した。
事前テスト: 学生の事前知識は多様であり、平均スコアは2.93であった。性別や学部と修士の間に有意な差はなかった。
内発的動機: 平均値は3.74で、性別間に差はないが、修士課程の学生が学士課程の学生よりも高かった。
学習行動: 多くの学生が答えを出す前に原文や誤答を確認し、推測だけで回答することは少ない。一部の学生は学習のステップの長さを意識的に選んでいた。
自己報告方略: 性別間に差はなく、修士の学生は関連理論を学び、フィードバックを活用することが多かった。
ディスカッション
学生の特徴と学習経路: 性別や事前知識は学習経路に影響を与えない。学部の学生は修士の学生よりも短い時間で課題を完了しているが、これは大きなステップを選択しているためである。
内発的動機の影響: 内発的動機が高い学生は小さなステップを選択し、より多くの練習を行うが、必要な試行回数は少ない。
学生の特徴と学習方略: 事前知識が高い学生や内発的動機が高い学生は、学習のステップを意識的に選び、情報源をより多く利用している。
私の所感
最初にこの論文の題目を見たとき、自分の研究キーワードと似ていると感じました。そのため、この論文を選びました。この論文では事前知識に関する調査を行った後、個別最適化されたデジタル教材で学習が行われています。私が考えているのは、事前知識の測定と個別最適化学習環境を統合することができるかどうかです。これにより、個別最適化学習環境の有用性を大幅に向上させることができると思います。これは実験環境に限定されるのではなく、広く応用できると思います。
しかしながら、論文では自己調整学習の概念が提案されていますが、Proteusというシステムを使用しているものの、自己調整学習(SRL)でどのような学習行動を支援しているのかについては明確に説明されていません。また、論文の文献レビューではフィードバックの概念に触れていますが、なぜ特定の個別最適化でフィードバックが使用されたのかについては詳しく説明されておらず、他の支援との比較もされていません。この点は追加されるべきだと考えています。
この論文は、学生の能力を測定する際の粗い粒度データの結果に関して有用な示唆を提供しています。私の研究では粒度が細かいデータを扱う予定ですが、私の研究にとって重要な先行研究として位置づけられると考えています。