九州大学 山田研究室

ダッシュボードが統計学学習の動機付けと不安に与える影響は?

2023年10月30日

皆さん、こんにちは、耿学旺です。
この記事では、今回の英語文献ゼミで取り上げた論文の内容と私の感想について紹介します。

論文タイトル: Predict or describe? How learning analytics dashboard design influences motivation and statistics anxiety in an online statistics course
論文誌:Educational Technology Research and Development
巻数とページ:69, 1405-1431
出版年:2021
著者名: Natercia Valle, Pavlo Antonenko, Denis Valle, Max Sommer, Anne Corinne Huggins-Manley, Kara Dawson, Dongho Kim & Benjamin Baiser
https://doi.org/10.1007/s11423-021-09998-z

以下は、論文に記載されている内容の概要になります。

多くの大学で統計学の授業がカリキュラムに組み込まれていますが、その難しさから不安を感じる学生が少なくありません。統計学への不安は、価値観、解釈の不安、試験や授業への不安、数学的計算への不安、助けを求める際の不安、教師への否定的態度といった六つの側面に分けられます。ICT技術の進展に伴い、オンラインでの統計学コースが増えていますが、インストラクターからの即時フィードバックの欠如や、統計ソフトの使用に関する習熟度などが求められるため、オンラインでの不安はさらに増大する傾向にあります。

動機づけが学習者の統計学に対する不安と学習成果に影響を及ぼし得ます。例えば、学習者がテストの成績に不安を感じる場合、ネガティブな感情が適切なメタ的認知ストラテジーを用いるのに影響を与えることがあります。一方、学習者が学習内容に対して内発的な動機づけをもっている場合、ポジティブな感情が生まれやすくて、適切な学習ストラテジーを使用しやすくなって、学習成果を促進することができます。この研究では、オンライン学習環境での学習成果と統計学への不安の軽減を目指し、達成目標理論に基づく2種類のラーニングアナリティクス・ダッシュボード(LAD)を開発して、その効果を検証しました。

研究では、大学院のオンライン統計コースに参加する179名を対象に、3つのグループ(対照群、記述群、予測群)に分けて2学期にわたり実施されました。予測群、記述群と対照群の参加者は、それぞれのLADを自由に使用することができます。
•予測LAD:学習者がコースの終了時に受け取るグレード(A、B、C、D&E)は、毎回の授業後の小テストの成績によって予測確率を計算して、習得指向の要素として表示さます。個人の学習者にのみ関連しており、クラスの他の学生に関する予測などのクラス比較要素は含まれていません。
•記述LAD:遂行指向の要素として学習者の個人の成績を、クラスの平均成績を比較できるよう同時に表示されます。
•対照群(オンラインコースのデフォルトのLAD):毎週の小テストの記述的データと、クラス全体の成績を示す箱ひげ図が表示されます。
測定ツールとして、MSLQ(Motivation Strategies for Learning Questionnaire, Pintrich et al., 1993)の動機づけに関連する項目(例えば、内的と外的目標志向の質問)と、STARS(Statistics Anxiety Rating Scale, Hanna et al., 2008)質問紙を使用して、事前と事後の動機づけと統計学に対する不安を測定しました。小テストの成績と最終成績を計算して、学習成果として分析しました。

Tobit回帰モデルで分析した結果、予測LADの使用と事前の内的目標志向のレベルとの交互作用が統計的に有意な正の効果が認められました。予測LADの効果は、学習者の事前の内的目標志向のレベルによって変わることが明らかになりました。これは、予測LADの個人の学習データを参照するという自己参照のデザインは、一般的に内発的動機付けを促す有用な手法であるとされていますが、内発的動機づけの低い学習者は自らの成績に対して高い基準を設定してしまい、動機付けの低下につながると考えられます。さらに、統計学への不安について重回帰分析の結果では、統計学に対する否定的な態度が強い記述LADと予測LADの学習者は、対照群の学習者よりも、コース終了時に統計学に対する否定的な態度が有意に下がったことを示しています。この結果は、達成目標理論の習得目標志向と遂行目標志向の要素を取り入れたデザイン両方とも学習者の統計学に対する否定的な態度が軽減したことが確認されました。その一方で、小テストの総得点と最終試験の得点において、ダッシュボードの種類(予測LAD、記述LAD、対照群のLAD)による学習成果への影響は見られませんでした。そのため、本研究のLADのデザインが学習者の動機付けと統計学に対する不安に影響を与えることに留まり、学習成果に影響を与えるデザインを提供するために、さらなる研究が必要なことを示唆しています。

私の感想としては、LADのデザインについて、私はいつも個人の学習データと社会的比較のデータについて分類しているので、達成目標理論の習得目標志向と遂行目標志向という視点でLADをデザインすることは、勉強になりました。さらに、テストの点数などの天井効果があるデータに対して、Tobit回帰モデルを用いられることも参考になりました。しかし、統計学に対する不安や動機付けへの影響を詳細に分析するためには、事前と事後のデータを比較することも不可欠だと考えられます。LADの使用前後における学習者の統計への不安や動機付けの変化ついて知りたいところです。さらに、統計学を学習している間、学習者の外発的動機づけと内発的動機づけは変動する関係にあるため、外発的動機づけと内発的動機づけを分けて分析することがかなり難しいことだと思います。両者の関係性を考慮した全体的な動機づけの変化を分析することで、より有益な知見が得られるのではないかと思います。

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