九州大学 山田研究室

ラーニングアナリティクスに基づく介入の効果とは?

2023年08月28日

皆さん、こんにちは、D3の耿学旺です。
この記事では、今回の英語文献ゼミで読んだ論文の内容と感想について紹介します。

論文タイトル: Developing a Learning Analytics Intervention in E‐learning to Enhance Students’ Learning Performance: A Case Study
論文誌:Education and Information Technologies
巻数とページ:27, 7099-7134
出版年:2022
著者名: Si Na Kew, Zaidatun Tasir

以下は、論文に記載されている内容の概要になります。

近年、大学ではeラーニングの導入が進んでいます。 eラーニングでは、学生は自分のペースと知識レベルで学習するため、それぞれの進捗状況も異なります。そのため、eラーニングにおいて、学生の個々のニーズに合わせてカスタマイズして、彼らが直面する問題を特定して、学習を支援することが求められています。さらに、学生のモチベーションはeラーニングで重要な役割を果たします。特に、学生のモチベーションが低下すると、学習意欲が減退し、コースからドロップアウトする可能性が高まります。また、学生の認知的関与と知識の定着もeラーニングにおける課題として挙げられます。

ラーニングアナリティクス(以下:LA)は、eラーニングにおける上記の課題を解決するために、学生の学習行動を調査し、学習環境に介入することで、学生の学習を改善することができます。多くの大学がLAを使用し、学生の学習を支援する介入を開発しています(例えば、パデュー大学やノーザン・アリゾナ大学など)。しかしながら、これらの教育実践では、学生の学習スタイルやモチベーションに基づいてeラーニングにおける学習オブジェクトや教材への介入が不十分である可能性が示唆されています。したがって、本研究では、フェルダー・シルバーマン学習スタイルモデルとARCSモデルを統合したLA介入を開発し、モチベーション、学習成果、認知的関与、リテンションといった側面からLA介入の有効性を調査しました。

論文著者らは、コンピュータベースのコースを受講する学部2年生50名を対象に、17週にわたるLA介入の評価を行いました。具体的には、以下の手順で調査を実施しました。
・第1週から第7週:学生はeラーニングを通じて自由に学習オブジェクトにアクセスしました。eラーニングで生成されたデータを利用・分析し、データマイニングの決定木手法を用いて、モチベーション、関与、知識の定着、および学習成果の要因からリスクのある学生を特定しました。さらに、特定した学生は学習スタイルのデータに基づいて分類されました。
・第8週:LAに基づく介入の実施:学習スタイルモデルとARCSモデルを統合して、学生の授業テーマに応じてモチベーションや学習スタイルの要素を追加することで、新たな学習オブジェクトを作成しました。
・第9週から第14週:新しく作成した学習オブジェクトをLAに基づく介入としてeラーニングに組み込み、特にリスクのある学生には、彼らの学習スタイルに応じて学習オブジェクトを追加提供しました。eラーニングを通じて生成された学習データを収集しました。
・第15週から第17週:収集された学習データを分析して、学生のモチベーション、学習成果、認知的関与、および知識の定着を更に測定して、LA介入の有効性を評価しました。

学習ログと心理的データについては、学生のモチベーションはIMMS(Instructional Material Motivational Survey)質問紙を使用して、学習前と学習後における学生のモチベーションを測定しました。また、eラーニングのディスカッションから収集したデータは、Van der Meijden (2005)によって提案されたコーディングスキームに基づき、複数の評価者がデータを判断して、学生の認知的関与を算出しました。学生の学習スタイルは、ILS(Index of Learning Styles)学習スタイルを診断する質問紙が用いられました。さらに、学習成果と知識の定着は授業内容に従って作成された事前と事後のテストで評価しました。

ウィルコクソンの符号順位検定を用いた結果、LA介入後、学生のモチベーションと知識の定着が統計的に有意に向上したことが示されました。また、事前テストと事後テストについて対応のあるt検定を分析した結果、両テストの得点に統計的に有意な差が認められて、LA介入を受けた学生の学習成果が促進されたことが示されています。さらに、認知的関与については、介入後、高い学生の数は16人から48人に増加し、低い学生の数は17人から2人に減少しました。これは、LA介入によって学生の認知的関与が高まったことを示唆しています。つまり、LA介入は学生のモチベーション、学習成果、認知的関与、知識の定着の向上に大きく寄与しました。これにより、e-ラーニングで学習遅れというリスクのある学生を早期に特定し、さらに学習スタイルに基づいた学習オブジェクトを提供することが、学習成果、モチベーション、および関与の向上に影響することが示唆されています。特に、LA介入が学生のニーズに適した学習オブジェクトを提供することにより、学生は明確なコンテンツ構造や学習スタイルに相応しい学習内容や関連情報で学習して、eラーニングの課題を遂行し、効率的に知識を獲得することと考えられます。さらに、ARCSモデルのモチベーション要素と統合された学習オブジェクトを提供することによって、学生のモチベーションが向上し、ディスカッションにおける関与が高まり、知識の定着がより容易になる可能性があります。

以下は私からの感想です。 LAは、単なる分析にとどまらず、学習者が学習を理解することを支援し、学習の改善を促進し、最終的に学習を向上させることがその目標であると考えられます。LAに基づく介入は学習を改善する方法の一つとして注目されており、その学習改善へのアプローチに興味を持って、この論文を選択しました。以前、Felder-Silverman学習スタイルモデルを用いて、eラーニングにおける学習コンテンツの提供に関する先行研究を読んだ経験がありますが、この研究では学習スタイルモデルとARCSモデルを統合して学習コンテンツを提供することに対して新規性を感じ、参考になりました。しかし、原典にあまり記載されていないのですが、リスクのある学生に対するLA介入の提供方法についても知りたいところです。例えば、アクティブな学習スタイルの学生に合致するアクティブタイプの学習オブジェクトを提供するのか、あるいは内省タイプなどの別スタイルの学習オブジェクトを提供するのかが気になります。これらの学習スタイルの提供方法も介入にとって重要な要素と考えられます。また、今回の分析結果からは、学習成果、認知的関与、およびモチベーションとの因果関係を特定するのが難しいと考えられます。さらなる分析手法の導入によって、この因果関係を明確にすることで、より興味深い知見が得られると思います。

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