九州大学 山田研究室

自己調整学習を支援する教育システムに関する論文を読みました

2023年08月14日

修士2年の平田沙希です。
今回の英語ゼミでは、以下の論文を輪読しました。

タイトル:Effects of Technological Interventions for Self-regulation: A Control Experiment in Learnersourcing
著者:Hatim Lahza, Hassan Khosravi, Gianluca Demartini, and Dragan Gasevic
学会:LAK22(The 22nd International Conference on Learning Analytics and Knowledge)
発表日:2022年3月21日から25日

LAKという教育工学のトップの国際会議で発表された論文です。
内容は、学習者自らがクイズなどの学習コンテンツを投稿し、それを基に学習を行うプラットフォームである「learner sourcing」に、「自己調整学習」を支援する機能を追加し、その効果を検証したものです。

「learner sourcing」は、有効な学習環境として認められる一方で、そこで投稿されるコンテンツの質にばらつきがあることが問題視されています。
そこで、この研究では、学習者のコンテンツ創作を支援するために、自己調整学習方略に基づいた「learner sourcing」のインタフェースが開発されました。
自己調整学習は学習者が自分自身の学習を調節する能力を意味し、これを支援することで一定の質の高い学習コンテンツを作成できると考えられます。

学習システムでは、学習者はクイズを作成し、それを掲示板に投稿します。この機能に加えて、システムには、自己調整学習研究に基づいたコンテンツ創作を補助するインタフェースが追加されました。
具体的な支援機能として、「プランニング」、「モニタリング」、「自己評価」という3つのモジュールが作成されました。

プランニング機能では、コンテンツ創作に必要なステップが明示され、それぞれのステップごとに問いかけが提示され、それに回答することで必要な手順を確認します。
モニタリング機能では、複数選択問題の作成マニュアルに基づいて、作成上の必要条件を満たしたコンテンツを作成できているかをチェックリストを基に判断し、パフォーマンスのモニタリングを支援します。

自己評価機能では、コンテンツ作成後に学習者にコンテンツの見直しを促し、より質の高いコンテンツ作成や修正を支援します。具体的には、質問に従って自分のコンテンツを5段階評価する、コンテンツをどのように改善するかを自由に記述するという機能があります。

この研究では、自己調整学習支援機能を統合したシステムの効果を検証するため、大学生797名を対象に現場実験が行われました。どの支援機能に効果があるのかを検証するため、被験者は「支援機能なし」、「一部の支援機能あり(プランニング、モニタリング、自己評価のいずれか)」、「全ての支援機能あり」の5つのグループに分類されました。

分析では、各グループの「学習行動」や「学習者のシステムに対する有用性認知」、「自己調整学習支援機能が学習コンテンツの質に与える影響」が検証されました。
分析手法としては、マン・ホイットニーのU検定、プロセスマイニング(PM)およびマルコフ過程モデル(FOMM)、ピアソンの相関分析が用いられました。

実験の結果、
学習行動に関しては、自己調整学習機能があるグループでは、コンテンツ創作にかける時間が有意に多いことが明らかになりました。また、学習の効果に関する質問紙の結果、「支援機能なし」のグループが最も学習が効果的であると感じていることが判明しました。

一方で、「プランニングあり」と「すべての支援機能あり」のグループに関しては、学習に効果があると認識している割合が少なく、システムに対して否定的なコメントが見られました。
さらに、全学生のコンテンツの質に関する検定の結果、どのグループ間にも有意差は見られませんでした。

このことから、自己調整学習支援の機能は課題の手順を複雑化し、課題ごとの時間を増加させる傾向があり、本研究では自己調整学習支援が学習パフォーマンスの向上に有意な影響を与えなかったことが判明しました。

この結果の理由として、学生にとって自己調整学習支援を有効に活用するための既存の知識が不足していた可能性や、ページの読み込みにタイムラグが発生するなど、テクノロジーの問題が学習の参加度を低下させた可能性が指摘されていました。

以下からはこの論文を読んだ私の感想になります。
まず、私がこの論文を選んだ理由は、評価の方法や自己調整学習支援に関して自分の研究の参考にしたいと考えたからです。この論文を読んで、改めて学習者の自己調整学習行動を支援するのは容易ではないと感じました。ゼミでは、自己調整学習が高い学習者は支援機能を使わない傾向がある一方、自己調整学習レベルが低い学習者には支援機能が効果的であることが指摘され、学習者の既有知識や学習到達度に応じて、システムのあり方を考える必要性を認識しました。

この論文は、LAKというトップジャーナルに掲載されているものですので、実験の方法や統計手法は非常に参考になると考えています。高水準の国際ジャーナルを読むことで、そこで実践されている統計手法を自分の研究にも活用していきたいです!

 

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