九州大学 山田研究室

教育の未来を探求:共感を得る教育におけるVR技術の応用と探索

2023年08月07日

みなさん、こんにちは、M1の李瑭です。

今回の英語文献ゼミの論文について紹介いたします。

最近、私は自分のシステムのプロトタイプを開発し、形成的評価を行いました。多くのデータが収集され、その解析方法や今後の実験や評価のためのデータ収集のタイプについて、この研究が非常に参考になりました。また、読んだ論文は、共感を促す教育の研究に基づき、更にVR技術を利用しています。この論文は、VR技術を通じて共感を体験し、共感を促す教育の学習ツールとして活用できることを示しています。

論文のタイトル: Immersive virtual reality game for cognitive-empathy education: Implementation and formative evaluation.

論文誌:Education and Information Technologies.

ページ数:1−32

著者:Jeon, H., Jun, Y., Laine, T. H., & Kim, E.

発行年:2023

 

下記が本論文の概要になります。もしご興味がありましたら、ぜひ本論文をお読み下さい。

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共感とは、他者の立場に立って考えたり理解したりする能力を指し、主に認知的共感と情動的共感の2つに大別されます。認知的共感は他者の思考、視点、感情を理解する能力であり、他者の感情や状況を認知的に把握することを意味します。一方、情動的共感は他者の感情状況を直感的に感じ取る能力を指します。共感は人間の基本的なスキルの1つとされ、社会的作用を可能にし、他者を理解するための手段とされています。

伝統的な心理学分野では、自身や他者の感情を認識し、他者の視点に立ち、共感を示すスキルを育成することにより、共感力の向上を目指してきました。しかし、多くの共感を促す教育の研究は主に観察、参加、感情を含む社会的状況でのロールプレーイング(role-playing)に基づいたシナリオに焦点を当てています。それらの手法は認知的共感を促す教育に有効ですが、異なる視点を理解し、受け入れることによって自己と他者の境界を把握する基盤となる部分は十分にカバーされていません。このギャップを埋めるために、本研究は認知的共感を促す教育に焦点を当て、異なる視点を持つことを理解し、受け入れることの重要性を提案しています。

この研究では、認知的共感を学習するための新しい学習ツールとして、VRゲーム「Mysterious Museum」を提案しています。このゲームはシステムのユーザビリティ、コンテンツ展示方法、カメラ視点(FPP、TPP)についての設計コンセプトを評価することを目的としています。ゲームの内容は、エンジニアの視点を持つロボットが主人公となり、このロボットが人間への変身を願う教育的な冒険を描いています。ゲーム内では「曖昧さの部屋」と「視点の部屋」の二つのシーンが展開され、ユーザーはコントローラーを使用してロボットを操作し、レイを用いてオブジェクトやユーザーインターフェースとの相互作用を行っています。

特に、「視点の部屋」のシーンでは、「ギャラリー」方式と「コンベヤーベルト」方式の2つのコンテンツ展示方法が試され、それぞれについて三つのカメラ視点法(即ち、「TPP(三人称視点)-FPP (一人称視点)カメラ移動」、「FPP固定」、「TPP-FPP フェードイン/アウト」)が検討されました。結果的に、合計6つのバージョンが形成的評価の対象となりました。

形成的評価では、VR酔い、システムのユーザビリティ、そして異なるコンテンツ展示方法とカメラ視点法の比較を行いました。VR酔いが学習効果にネガティブな影響を与える一方で、システムのユーザビリティは中程度の評価を得ました。また、ユーザーは「コンベヤーベルト」方式と「FPP固定」視点を好む傾向が見られ、それはVR酔いの症状を抑える効果があったからとしています。

この研究の成果として、「Mysterious Museum」のVRゲームを開発し、認知的共感を促す教育の新たなアプローチを提供したことが挙げられます。このゲームはユーザーに異なる視点が存在することを認識させ、その視点の理解が認知的共感の育成に重要であることを示しています。形成的評価では、ゲームの有効性は直接的には測定されませんでしたが、観察結果と参加者の反応から、学習目標と方法が適切に説明された場合、このゲームは学習ツールとしての潜在能力があると推測します。

私個人としては、この論文からVR酔いとシステムのユーザビリティの評価についての知見を得ることができました。これは非常に重要な点で、VRシステムを用いた効果的な学習のためには、学習者がVRシステムの操作に慣れることが重要であると強調しています。また、VR酔いがVRシステムの体験や学習効果にどのように影響を及ぼす可能性があるかを理解し、その評価を通じてシステムの有用性を評価することの重要性が示されました。

ただし、共感を促す教育を支援するためにどのような学習ストラテジーが利用されているのか、そしてその具体的な効果が論文中で明示されていないところが、理解するのが難しい点でした。具体的には、学習者が共感力を獲得するまでに達成すべき目標について疑問が生じました。さらに、このゲームが全年齢向けだと考えられますが、今回の形成的評価の参加者は大学生でした。著者らが将来、他の年齢層からも意見を集めることを予定しているにも関わらず、共感育成の必要性は全年齢に当てはまるのでしょうか?これには私自身が疑問を持っています。共感育成は基本的には子どもから育てていくものだと思われますが、全年齢層が共感の育成を必要とする理由がまだ理解できません。さらに、VRの活用理由についても説得力が足りないと感じます。なぜなら、VR技術を選択した理由として、先行研究でVRゲームが伝統的な2Dゲームより共感育成に効果的であることが示されたから、ということが挙げられています。しかし、それだけがVRを選択する十分な理由とは思えません。もしVRの特性と共感育成との関連性がより明確に示されれば、より説得力を持つと思います。

全体として、この論文はVRを用いた共感を促す教育に新鮮な洞察を提供し、研究者や教育者にとって有益な洞察を提供しています。いくつかの未解明な点が残っていますが、それらが未来の研究に対する思考と議論を刺激する一方で、教育方法への革新的なアプローチとユーザーエクスペリエンスの視点からのVR酔いの実証研究は、テクノロジーが教育方法をどのように強化し変化させるかについて、私に深い理解を与えています。今後もこのような研究が増え、この領域がさらに発展することを期待しています。

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