九州大学 山田研究室

教育の未来への新たな一歩:VR技術と身体化された学習の組み合わせ

2023年06月19日

みなさん、こんにちは、M1の李瑭です。

今回の英語文献ゼミの論文について紹介します。

この論文は、2023年の教育分野における身体化された学習とVRの組み合わせに関する研究です。この研究ではVR技術は身体化された学習理論を具現化するプラットフォームを提供しますが、実際にVR技術を活用し、身体化された学習理論に基づく研究はまだ非常に少ないです。私の研究では、VR技術と身体化された学習理論を組み合わせたアプローチについて深く理解することを目指しており、この論文はその参考となり、また、私の研究を評価する新たな視点を提供してくれると考えています。

論文のタイトル:Virtual reality and embodied learning for improving letter-sound knowledge and attentional control in preschool children: A study protocol.

論文誌:Computers & Education: X Reality2, 100019.

著者:Henriksen, A. H., Topor, M. K., Hansen, R. A., Damsgaard, L., Nielsen, A. M. V., Wulff-Abramsson, A., & Wienecke, J.

発行年:2023

下記が本論文の概要になります。もしご興味がありましたら、ぜひ本論文をお読み下さい。

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近年、子供たちの読解力の重要性はますます認識されてきました。困難なスペルや読解能力は、子供たちの学業成績に影響を及ぼすばかりか、将来の職業生活にも影響を与える可能性があります。そのため、できるだけ早い段階で読解力を育てることが推奨されています。

身体化された学習に関する研究によれば、身体の動きは認知機能を強化し、結果として学習効果を高めることが示唆されています。特に、身体の動きは注意力に重要な影響を及ぼし、身体の動きを通じて行われる学習は子供たちの読解能力を向上させることができます。一方で、技術の進歩により、特に仮想現実(VR)のような新しい教育介入手段が可能になりました。これにより、より多くの子供たちが教育に集中し、理解を深めることが可能になります。これは特に、学習に困難を抱える子供たちにとっては大きなチャンスとなるでしょう。

この研究では、VR技術が身体化された学習ツールとしてどのように活用され、子供たちの文字と音素知識を向上させ、読み書きの能力を改善する可能性があるかを調査します。この研究の参加者は6-7歳の子供たちで、各グループは少なくとも30名の学生から成る2つの介入グループ(すなわち、VRグループとミラーグループ)と対照グループに分けて活動します。

VRグループでは、参加者はVR設備を装着し、自分自身のアバターが活動を行うのを見ます。そして、文字と音素に関連した全身の動き(whole-body movements)を行います。ミラーグループでは、参加者は鏡で自分自身の映像を見て、文字と音素に関連した全身の動きを行います。一方、対照グループの参加者は、彼らの教師による通常の教育活動に引き続き参加し、VR設備を装着せず、全身の動きも行いません。

残念ながら、この研究はまだプロトコル段階にあります。従って、ここでの考察は実験結果に基づいたものではなく、教育の文脈でのVR技術の可能性と課題についての議論となります。

具体的には、VR技術と身体化された学習の組み合わせは、学習成果を向上させるだけでなく、子供たちを新しい教育体験へと引き込む可能性があります。ただし、現時点では、子供たちがVRを使用することによる注意制御の即時的な影響や、文字と音の知識をすぐに高める可能性について洞察を提供するものであり、その長期的な効果についてはまだ解明されていないという点に注意が必要です。したがって、この分野の研究はまだ発展途上であり、今後の進歩により、より有益な情報が得られることを期待しています。

私の考えでは、この論文は具体的な実験結果や確実な結論を提供するものではなく、あくまで研究のプロトコールに過ぎません。しかし、その研究の位置づけや引用されている先行研究は、私の研究にとって非常に有益だと感じています。たとえば、VR技術が身体化された学習にどう関連しているかの根拠が示されており、VR技術と身体化された学習理論を組み合わせる必要性が間接的に示唆されています。また、VRの没入感と学習者の主体性が、学習者の注意力を高め、学習にプラスの影響を与えると述べられています。これらの視点は、私の研究に対する信頼性のある裏付けを提供してくれると考えています。

しかし、この論文にはいくつか疑問点が残ります。例えば、論文では、実験設定において、VRグループ、ミラーグループ、対照グループの3つのグループを設けると提案しています。ここで、VRグループとミラーグループの両方で、鏡を見ながら動作を行いつつ単語を学習するという要素が必要です。しかし、論文中に具体的な説明がないため、VRグループとミラーグループの違いは、一つは仮想世界で、もう一つは現実世界で行われるということ以外にどのような要素があるのか明確には示されていません。これには様々な可能性があるかもしれません。例えば、VRグループでは、VRがもたらす没入感が外部の干渉をうまく防ぐことが提唱されていますが、子供たちはVR装置の影響を受け、仮想世界への好奇心から、注意力を集中させることが難しいかもしれません。一方、ミラーグループの環境についても特別な説明がなく、例えば、ミラーグループの環境が十分に静かである場合、または干渉が子供たちの注意力を集中させるのに十分な影響を及ぼさない場合、VR環境における注意制御の優位性は確認できないかもしれません。。

また、この論文中の実験設計における「全身の動き」が具体的にどのような活動を指すのか、明確には述べられていません。さらに、ここで支援を想定しているリテラシー学習がどの程度を意味するのかまだ理解できません。その理由として、この研究は主に単語の読み書きの能力に焦点を当てているように見える一方で、リテラシーの全範囲(読み書き、理解、文脈解釈)については触れていませんからです。そのため、提案システムはリテラシー学習に対してどの程度貢献できるのか、まだ明確ではありません。最後に、私はデンマーク語がわかりませんが、私の視点から見ると、全ての単語が身体化された学習理論に基づいて学ぶ必要があるわけではないと思います。そのため、この研究内では身体化された学習の適用範囲が明確ではないと感じています。

この研究は、VRと身体化された学習の組み合わせが教育分野において有望なアプローチである可能性を示唆しています。今後の研究によって、より具体的な効果や最適な適用方法が明らかにされることでしょう。教育の未来を切り開くために、VRと身体化された学習の結合に対する関心と取り組みがますます重要となっています。今後の研究と実践によって、より具体的な効果や最適な適用方法を明らかにし、学生たちの学習成果を最大化するための新たな教育手法を開発することが期待されます。

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