九州大学 山田研究室

英語学習におけるAR・VRを用いたウェアラブルシステムに関する論文を読みました

2023年06月12日

皆さん、こんにちは、D3の耿学旺です。
この記事では、今回の英語文献ゼミで読んだ論文の内容と感想について紹介します。

——————————————————————–

論文タイトル:Effects of AR- and VR-based wearables in teaching English: The application of an ARCS model-based learning design to improve elementary school students’ learning motivation and performance
論文誌:Journal of Computer Assisted Learning
ページ:1-18
出版年:2023
著者名:Cheng-Yu Hung, Yen-Ting Lin, Shih-Jou Yu, Jerry Chih-Yuan Sun

下記、論文中で書かれている内容の概要になります。
拡張現実(AR)と仮想現実(VR)は、学習者にオーセンティックな学習環境を提供して、没入感を通じて知識を学習することができます。言語学習においては、ARとVRを活用した学習環境に新しい単語を統合することで、学習者の語彙習得を促進して、モチベーションを高めたと多く報告されています。特に、テキストによる伝統的学習と比較して、ARとVRは単なる受動的な授業参加や知識の記憶ではなく、学んだ知識を現実の環境で活用することができる点で優れています。しかし、教育現場では、AR・VRウェアラブルシステムを用いた英語教育方法と、従来の英語教育方法との学習モチベーションや学習成果の違いを比較する研究が見当たりません。そこで、この研究では、従来の英語教育方法とAR・VRウェアラブルシステムの使用が英語教育の学習モチベーションや学習成果に与える影響を調査しました。

調査について、119人の台湾の小学生は、従来の英語教育方法(対照群)と、ARウェアラブルシステムを使用したARグループ、およびVRウェアラブルシステムを使用したVRグループという3つの学習グループに分けられました。調査は、英語教室で3つのセクションで実施されました。
・セクション1:3つのグループの全員が事前テストと学習モチベーションを測るIMMS質問紙(The Instructional Materials Motivation Scale;Keller, 2010)を受けました。その後、教師はスライドや絵カードを使って英単語を提示して、学習コンテンツの単語を生徒に説明しました。3つのグループ間では、英語学習のARCSモデルの4つの側面と事前知識に統計的に有意な差は見られませんでした。
・セクション2:3つのグループはそれぞれ学習活動を行いました。学習活動の前、生徒は5人の小グループを組んで、学習システムの操作や使用などのインストラクションを受けました。対照群の生徒は、教科書を読んで、ワークシートを使って文房具の英語を学習しました。ARグループの生徒は、ARウェアラブルシステムを使って、現実の教室の環境にある文房具をスキャンして、バーチャルな英単語と意味の提示を閲覧することで、その文房具の名前を英語で学習しました。それらに対して、VRグループでは、生徒はVRシステムを用いて、仮想の英語教室環境の個々の文房具の上にあるボタンをクリックして、表示される仮想の情報(英単語と意味)を読んで、英単語の学習を行いました。
・セクション3:まず、生徒全員は、学習した英単語を復習して、発音を練習しました。そして、グループ学習活動を実施しました。対照群の生徒は、タスクカードに描かれている絵によって、それに対応する英単語に欠けているアルファベット文字を仲間と一緒に探して、記入しました。ARグループでは、ARシステムを使用して、文房具をスキャンすることで、仲間と一緒に英単語に欠けているアルファベット文字を探しました。VRグループの生徒は、VRシステムを使って、タスクカードに欠けている文字を仲間と一緒に見つけて記入しました。その後、生徒全員は事後テストとIMMS質問紙に回答しました。さらに、各小グループから1名の生徒を選んで、15分間の半構造化インタビューを実施しました。

また、学習モチベーションを高めるために、AR とVRウェアラブルシステムを用いた英語教育の活動は、ARCSモデルの要素を取り入れて設計しました。
・注意:ARシステムを使用する際、生徒は教室の前方に移動して、文房具をスキャンするために集中する必要があります。VRシステムの仮想環境のデザインが生徒の注意を引いて、学習コンテンツに集中させる効果があります。
・関連性:ARとVRシステムは、英語のテキストの知識と日常生活のシーンを組み合わせて、日常的によく使われる文房具をトピックとして、親和性の高い学習文脈を作り出しました。
・自信:AR環境またはVR環境で、生徒はまだ学習していない単語を自分のペースで単語を学習して、システムとのインタラクションを通して、自信を深めることができます。
・満足度:生徒はAR環境またはVR環境で、自身の努力と反復練習により学習目標を達成することで、満足感を得ることができます。

3つのグループの事後テストと事後のIMMS質問紙の回答について分散分析で分析しました。その結果、三つのグループは事後テストの得点、注意、関連性、自信及び満足度について統計的有意な差が認められませんでした。さらに、重回帰分析を行い、ARCSモデルの4つの側面(注意、関連性、自信、満足度)が、3つのグループにおいて、学習成果にどのように影響するかを調査しました。重回帰分析の結果、VRグループにおいては、自信が学習成果の有意な正の予測因子として確認されました。これは、VRグループの生徒がリアルタイムでシステムとのインタラクションを通じて、英単語を効果的に学習できたことを示唆しています。インタビューや自由記述問題への回答から、VRグループの生徒同士が問題解決を助け合いながら、新しい単語を徐々に習得していったことが分かりました。単語の習熟度の向上は、テストを受けたときの自信にもつながり、学習成果を大幅に向上させました。一方で、伝統的な英語教育方法を受けた生徒は、伝統的な教育環境の制約により、学習者の英語学習における長期的なネガティブな経験を変えることが困難でした。ARグループの生徒は、ARシステム使用時のめまいが発生したり、ARシステムに注意を奪われたりすることがあったため、ARCSモデルの要素が学習成果を予測することができなかったと考えられます。

以下、私からの感想となります。ARとVR技術が外国語の教育現場でどのように活用されるかに関心を持ち、この論文を選択しました。特に、AR とVRシステムを用いる英語教育の活動のデザインにARCSモデルの要素を取り入れた点について大変参考になりました。一方で、調査結果について意外な点を感じました。それは、AR やVRシステムを使用した生徒と、テキストによる学習の生徒の間で学習成果と学習モチベーションに差が見られなかったことです。しかし、過去読んだ実験的なアプローチで学習モチベーションを調査するのを目的とした先行研究は、ARとVRシステムはテキストの学習よりも学習モチベーションを高めると多く報告しています。これらの結果の差について、調査結果はシステムの新規性と実験の期間が影響を及ぼす可能性を意識しました。また、著者がARとVRシステムが言語学習においてどのようなメリットとデメリットを持つのかについて触れていない点に気になります。AR言語学習システムとVR言語学習システムとの優劣を比較があれば、結果の考察が深まって、より興味深いものになると思います。

PAGE TOP