皆さん、こんにちは。学術協力研究員のカクです。
以前お話しましたように、私の研究は「インストラクショナルデザイン(ID)に基づく日本語教育における内容言語統合型授業法(CLIL)の開発」です。私の研究では、ID理論に基づいてCLILの授業デザインに関するチェックリストをデザインします。最近、自分の研究のチェックリストを修正するとともに、チェックリストを評価するための質問紙を設計する必要があったから、授業デザイン用のチェックリストに関する論文を読んでいます。
今回の英語文献ゼミでは、オンライン授業デザイン用のチェックリストの開発と使用者認識に関する論文を紹介します。
論文名:An online course design checklist: development and users’ perceptions
論文誌:Journal of Computing in Higher Education 31, 156-172.
著者:Sally J. Baldwin · Yu‑Hui Ching
発行年:2019
下記に概要をまとめました。
本研究では、オンライン授業デザインのチェックリストに対する利用者の認識を調査しました。オンライン授業の質を向上させる可能性のある基本的な基準を強調するのに役立つOnline Course Design Checklist(OCDC)を作成しました。そして、授業デザイナーのOCDCに対する認識を調査しました。
授業デザインは、授業を行われる基本原則だと指摘されています(Koehler and Mishra 2005, p.135)。オンライン授業も、インストラクショナルデザイナー、インストラクター、またはそれらの専門家の組み合わせによって設計されることがあります。効果的なオンライン授業を設計するには、の満足度を最大限に高め、従来の教育とは異なる形態(たとえば対面、オンライン、ブレンドなど)で学習成果を促すことが重要です。しかし、現在のオンライン授業の講師は、授業デザインの理論や経験が不足していると本稿では指摘しています。またその評価において、現在利用可能なオンライン授業用の評価ツールがあります。しかし、あまりに規模が大きく使いにくい問題があります。例えば、Open SUNY Course Quality Review Rubric (OSCQR)では50の指標を持つなど、あまりにも広範です。そのため、すでにある設計ツールをさらに簡略化する必要があると本稿では指摘しています。
本論文では、オンライン授業デザインの質を向上させる可能性のある基準を強調するチェックリストを提案しています。
本研究は、オンライン教育における品質ガイドラインの重要性を明らかにした先行研究(Chao et al.2010; Choi and Ahn 2010; Yang and Cornelious 2005)を基に、を提供することを試みています。そこで、本研究では、オンライン授業をデザインする際に必ず必要なデザイン要素だけを集めた1ページのチェックリストを作成しています。
開発の段階
まずは、チェックリストに記載する必要のある項目を特定します。これらの項目を選択する基準は、授業をデザインする際に最も重要であり、「絶対に外せない」項目とされています。そして、チェックリストを作成するために、現在の評価方法、マルチメディアとインストラクショナルデザインに関する文献を検討しています。また、オンライン学生、教師、インストラクショナルデザイナーとしての経験から、どのような基準を盛り込むべきかを決定しましたということでした。OCDCの開発には、ADDIEモデル(分析、設計、開発、実施、評価)が用いられていました。
OCDCの項目
授業前 |
授業中 |
授業後 |
学習者を分析し、知識ベースや興味を理解する(1) |
情報を扱いやすいレッスンに切り分ける(4) |
授業のタスクが、学生に学んでほしいことを測定していることを確認する。(11) |
授業でカバーする内容を明確にする(2) |
学生の期待について説明する(5) |
レッスンのナビゲーションが直感的に操作できることを確認する(12) |
学生が授業を通して、達成できなければならない測定可能な項目を特定する(3) |
学生-学生、学生-講師、学生-コンテンツ間のインタラクションを誘発する(6) |
余計なメディアや情報を排除する(13) |
課題に対するルーブリックを提供する(7) |
すべてのリンクが機能することを確認する(14) |
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有益なメディアを最適に活用する(8) |
スペルチェッカーを実行する(15) |
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レッスンの形式や内容に関して、学生がフィードバックを行う機会を設ける。(9) |
同僚、友人、同僚に作品をチェックしてもらい、不明な点を確認する(16) |
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インストラクター、テクノロジーヘルプ、学生サポートサービスの連絡先を確認する(10) |
使用者認識を調査する段階
参加者とその背景
参加者:米国北西部の州立大学のオンライン修士課程に在籍する大学院生を対象に、12名が教師、1名が教育デザイナー、1名が学生、残りの5名が他の職業でした。参加者のオンライン授業デザインの経験は、全くない(n=4)から5授業以上デザインしたことがある(n=7)まで、さまざまです。
方法:参加者はOCDCを使用して、オンライン授業をデザインしました。そして、授業終了時に、OCDCに関する意見を記入するオンライン質問紙を実施しました。質問紙は、参加者がOCDCをどのように使用したか、OCDCに対する満足度、OCDCの使用がコースデザインに影響を与えたか、また、意見を求めるために作成されました。
結果
ユーザーエクスペリエンスと満足度
参加者の21%(n=4)が授業デザインのプロセスを大きく変え、参加者の26%(n=5)が中程度、参加者の47%(n=9)が少し、そして1名が全く変えなかったと回答しました。
79%の参加者(n = 15)が、デザインプロセスの最後にOCDCを使用したと回答しました。全体として、63%の参加者がOCDCの使用に満足または非常に満足しています(n = 12)。残りの37%の参加者は、OCDCを好きでも嫌いでもなかったと回答しました(n = 7)。79%の参加者は、完成した授業のデザインに非常に満足(n = 4)または満足(n = 11)したと報告しました。
チェックリストのデザイン
参加者全員(N=19)が、OCDCをわかりやすいと感じたと報告しています。
今後の利用について
今後授業デザインする際、64%の参加者がOCDCを使う可能性が高い(n = 6)、または非常に高い(n = 6)と回答しています。
提案された変更点
31%(n=6)の参加者は、チェックボックスにインタラクティブなチェックマークで進捗状況を記すことを望んでいました。また、追加で説明を加えることを提案する参加者もいました。
結論
本研究で著者らは、オンライン講師が質の高いオンラインコースを設計するのを支援する目的で、オンラインコース設計チェックリストを設計、開発、テストしました。結果は、OCDCがオンラインコースのコンテンツの設計と開発を支援する有望なツールであることを示しています。
OCDCは、オンラインコースを設計するオンラインインストラクターのすべての経験レベルに適用可能な基準になっているということです。追加的な説明を加えるという提案もあったが、OCDCをシンプルで使いやすいものにするために、現在のレイアウトを維持することにします。しかし、OCDCに掲載されている様々な基準の例へのリンクをユーザーに提供することも可能とされています。今後の研究では、チェックリストが授業デザインにどのような影響を与えるかについて、参加者にインタビューして詳細を収集することが必要であることや、基準の追加と削除を実験することも求められるとしています。
私自身のこの論文に対する感想は、チェックリストの項目やチェックリを評価する質問項目は、自分の研究にも参考になりましたので、ぜひ活用したいと思いました。しかし、著者自身が論文で述べているように、参加者が少ないことが、この研究の限界であると思います。また、人数が少ないことが分かっていれば、質問紙の後にインタビューを入れる方など、質的データを厚く取るなど検討した方がいいと思いますので、自分の研究では質的にデータをとって、評価に厚みを出していきたいと思います。