九州大学 山田研究室

「コンピュータ支援型発音学習」に関する論文を読みました

2023年04月24日

こんにちは。
山田研究室修士2年の平田沙希です。

新年度初の英語ゼミで私が選んだ論文はこちらになります。

論文誌名:Beyond self-directed computer-assisted pronunciation learning: a qualitative investigation of a collaborative approach
著者:Pi-hua Tsai
発行年:2019
出典:approach, Computer Assisted Language Learning, 32:7, 713-744,

外国語を正しく発音することは、円滑なコミュニケーションを行う上で重要な要素です。
発音学習には、自分の発音が正しいかを判断するためのフィードバックが必要とされており、近年ではコンピュータの音声認識技術を使った、発音のスコアリング、グラフ化といったフィードバック方法が注目されています。

この論文では、そういったコンピュータでの発音学習において、学習者がコンピュータのフィードバックをどのように認知するのかが調査した結果が掲載されていました。また、学習の過程で、どういった発音の困難を経験し、他の学習者と、どのように学習を補助し合うのかという点も調査されていました。

研究では、大学生60人がペアを組み、10週間に渡って、コンピュータによる発音学習を行いました。本研究で用いられた発音学習ソフトはMyETというもので、音声認識により音素・ピッチなどの評点、波形データ、口の形を示す3Dデータがフィードバックとして提供されます。実験の間、学習の様子が観察され、学習前中後にシステムのフィードバックやペア学習に関して質問紙と自由記述が実施されました。

調査の結果、ペア活動では、「初心者/上級者の交流」と「協調的交流」の2種類の交流パターンが見られました。前者では初心者側がシステムで問題点の改善が出来ないときに、上級者側がモデルの発音を実践し、初心者側に自分に続けて発音させるよう指導する学習が見られ、後者では、問題点に対して、お互いの発音をモニタリングし合い、一緒に解決方法を探る学習行動が見られました。また「協調的交流」パターンでは、ピアとの共同を楽しんでいる様子が見られたことから、発音学習のモチベーション向上に繋がると考えられます。

また、質問紙の結果からは、コンピュータ学習に対して肯定的な意見が、否定的な意見を上回る結果となりました。具体的には、ポジティブな反応として、「母音の長さ」や「ピッチバリエーション」、「テキストとグラフ」によるフィードバックがあげられました、逆に、ネガティブな反応としては「モデルの発音が速すぎる」や「発音のスコアリングに一貫性がなく納得がいかない」、「曖昧なコメント(例、より高いピッチで発音してみよう)で明確な修正方法が示されていない」などがあがりました。

最後にコンピュータ上の発音学習後に、学習者の音素に対する困難性が軽減されていることが判明し、音素のフィードバック方法として3Dアニメーションの有効性が指摘されていました。さらに、CAPTでより多くの発音練習を行うことによって、発音能力が改善されると思いますかという質問に関しては、80%が「はい」と回答しました。

結論としてテクノロジーと人間によるフィードバックは、発音学習支援において相互補完的な関係にあります。ピアとの学習は、フィードバックを与え合う活動が見られ、個人学習では解決しきれない発音の問題点の修正を促すと考えられます。

 

私がこの論文を読もうと思った理由について話します。1月に自分の発音支援システムの評価実験を行い、実験のログ分析を通して、学習者は自分の発音の問題点を自分で解消することが難しいということがわかりました。ですので、この論文を読んで、発音の問題点を解できるような設計を学びたいと考えました。

実際に論文を読んで、主に3つの点が参考になりました。
まず、Collaborationによって発音能力向上に繋がると認知した学生が多かったことから、発音をモニタリングし合い、改善の仕方を探索する活動によって発音能力が向上することが期待されます。この活動をシステムのみで完結させる場合、例えば音声認識の結果からシステムがピアの代わりとして、学習者の発音の問題個所を把握し、その改善を導くような具体的な質問を投げかけることで、発音能力に対する認知を向上させることができると考えられます。その際、この研究が実践していたように、音素・イントネーション・アクセントなど発音の要素ごとに修正方法のフィードバックを与える仕組みが重要だと思いました。

2つ目に、インプットは学習者の内発的動機づけを促すため、オーセンティックな内容にするべきと書かれていました。これに関して、自分のシステムでも、学習モチベーションを高めるために、学習者の文脈に近い単語を選定する必要があると感じました。

3つ目に、フィードバックに関して、発音が間違っている箇所をハイライト(例、色をつける、文字起こし、強調・アンダーライン)したり、波形データや画像を表示したりするなど、視覚的なフィードバックも効果的であると考えられます。

一方で、この研究に関して疑問に思う点も何点かありました。
まず、システムの発音能力に対する定量的効果が示されていないので、本研究で提案された協調学習方法やCAPTのフィードバックの有効性に関する、客観性や信頼性が低いと感じました。また、システムの学習ログの解釈がないので、CAPTの具体的な学習行動に関する知見が薄いです。最後に、collaborationパターンは学習モチベーションを向上させうることが分かりましたが、このパターンの協同学習を実現するにはペアの作り方が重要だと思います。学力が同じくらいの生徒を選ぶだけでなく、性格の相性などの要素も関わってくると考えられます。ペアの特徴にまで言及していれば、この論文はさらに興味深い知見になっていたと思います。

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