九州大学 山田研究室

言語学習活動におけるAR活用で認知的活動を高めるにはどうすればいいのか?

2022年11月15日

皆さん、はじめまして。D3の耿 学旺(コウ ガクオウ)と申します。

まずは、自己紹介を兼ねて、どんな研究をしているかを簡単に紹介します。

日本に来る前に、中国のIT企業でK12オンライン教育のプリケーションのプロダクトマネージャーとして働いていました。教育アプリケーションのデザイン・開発に関わる中で、教育工学に興味を持つようになりました。その後、日本に留学することを決めました。

日本に来たものの、当初、日本語はまったくわからなかったので、大学院に入る前に2年間、ずっと日本語学校に通っていました。日本語の勉強で一番苦労したのは、複合動詞の学習でした。例えば、道で知らない人に何かを聞こうとするとき、この場合、「呼ぶ」と「呼びかける」のどちらを使ったら正しいかわかりませんでした。他にも、「人に声を呼びかける」と「節水を呼びかける」といった表現が日本語にはありますが、この2つの表現において「呼びかける」の意味は違うように感じるのですが、実際はどうなのでしょうか。日本人のみなさんにとっては考えたこともないことかもしれませんが、外国人の学習者にとっては日本語の複合動詞の概念的理解はとても難しいのです。そこで、外国人が複合動詞を学習できるように、複合動詞の学習支援システムを設計・開発できないかと考えました。

私の研究ですが、修士段階では、複合動詞学習の問題点に着目して、コア図式を導入した複合動詞のアニメーションを作成して、日本語複合動詞学習支援の拡張現実システムを開発しました。このシステムでは、紙の動詞のカードとカードの組み合わせによって、複合動詞が指すアニメーションを拡張現実(AR)にて表示することで前項動詞、後項動詞及び複合動詞の意味を理解することが可能となります。現在、学習者がシステムで生成した学習データを、ラーニングアナリティクスを活用し、ARを使用した学習行動を振り返ることができる日本語の複合動詞学習環境の構築について研究しています。

さて、今回の英語文献ゼミで、私が読んだ論文を紹介したいと思います。

論文名:Augmented reality enhanced cognitive engagement: designing classroom‐based collaborative learning activities for young language learners
著者名:Yun Wen
論文誌名:Educational Technology Research and Development
巻号:2,69
ページ:843-860
発行年:2021

選択した理由なのですが、今まで、AR言語学習システムについて、実験的に効果検証する研究が多いですが、教育現場への実践が不十分で、特に、インストラクショナルデザインを取り入れたARの言語学習研究が極めて少ないとされています。本論文を読むことで、教室における授業はどのようAR言語学習システムと組み合わせて、デザインするかについてヒントを得たくて、この論文を選択しました。

では、ここから論文の内容の紹介に入っていこうと思います。

本論文内ではARは、現実世界と仮想のオブジェクトを統合する技術として教育にますます応用しています。ポジティブな感情の促進、協働学習の向上、及び効率的かつ効果的に学習するなど、ARのメリットが数多くの研究に報告されています。しかし、教室におけるAR言語学習の研究が不足しており、特に、協調活動を取り入れたAR言語学習があまりされていないと指摘しています。そして、協調活動の関与は、活動への関与を評価するのではなくて、主に認識と態度を調査する質問紙によって測定されています。この論文は、協調的問題解決(CPS)と探究学習の要素をAR学習活動に組み込んで、AR漢字学習ゲームを用いた中国語の語彙授業をデザインして、学生の認知的関与を調査しました。

実験デザインについて、2クラスのシンガポールの小学校2年生を実験クラスと対照クラスに分けて、実験クラスは漢字学習ゲームを行って、対照クラスはゲームを使用せずに同様の活動を行われました。実験は3回の中国語授業で実施しました。各授業には、部首の学習、成果物の作成、その共有の3ステップで構成されました。各クラスでは、グループの学習プロセスを撮影して、Chiら(2009, 2014)の開発した認知的関与ICAPフレームワークに基づいて、生徒の認知的関与を分析・評価しました。生徒と教師に半構造化インタビューを行いました。

調査した結果、実験クラスだけでなく、対照クラスも設計された活動に積極的に取り組んでいましたが、成果物の作成と共有の活動において実験クラスが明らかに向上したことが示唆されています。その理由として、著者は以下のように説明しています。成果物の作成と共有について、ARによる学習体験は積極的な関与を持続させて、生徒がより継続的に関与することができるとしています。

この論文では、認知的活動の向上がゴールになっています。教室では、学生がARシステムを使って言語学習して、さらに共同で紙ベースのAR成果物を生成することで、認知的活動を高めることが示されています。一方で、より高いレベルの認知的関与を促進するためには、教師の役割が不可欠であることも強調されています。しかし、言語の習得もAR言語学習研究の重要なゴールで、学習成果、そして、それと認知的活動との関連性を議論すべきではないかと感じました。そして、今回の学習活動のデザインがCPSと探究学習などの理論を基づいてデザインされていないのは、気になるところです。また、著者は、グループの学習活動に焦点を当てていますが、個人の学習の影響はどうだったんだろう?グループへの影響はどうだったのか、気になるところではあります。これからどういう研究をされていくのか、楽しみに感じています。

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