九州大学 山田研究室

英単語学習における自己調整学習環境の効果検証研究論文を読みました

2022年11月24日

皆さん、こんにちは。M1平田です。

今回の英語文献ゼミの論文をご紹介いたします。

以前の記事でも紹介しましたが、私の研究では、学習者が自分で学習の問題点に気づき、その改善に必要な学習方法の選択を促すシステムの開発と評価を行っています。教育学諸領域では、学習者が自らの学習についてメタ認知などを発揮させながら、学習目標を達成するために自分の現状と照らし合わせて最適化するアプローチに関する理論の1つとして「自己調整学習」が注目されています。

そこで、今回の英語文献ゼミでは、自己調整学習に関する論文をご紹介いたします。

 

論文タイトル:An English vocabulary learning app with self-regulated learning mechanism to improve learning performance and motivation
論文誌:Computer Assisted Language Learning, 32(3), 237-260

著者:Chin-Ming Chen, Liang-Chun Chen, and Shun-Min Yang

発行年:2019

近年、モバイル端末を利用した英単語学習環境は増えていますが、自主的な英単語学習の効果は、学習者の自己調整学習能力の影響を受けることが明らかになっています。自己調整学習とは、学習者が自分自身の学習活動に能動的に関わり、自らの学習を調整するという学び方を指します。具体的な自己調整学習の要素として、「自己評価」・「モニタリング」・「目標設定」・「学習ストラテジーのプランニング・利用・モニタリング」などが挙げられています。先行研究では、高い学業成績を持つ学習者ほど、自己調整学習能力が高いことが報告されています。

今回選んだ研究では、自己調整学習メカニズムに基づいた英単語学習アプリが開発され、それが、学習者の学習パフォーマンスと学習モチベーションの向上に寄与するかが検証されました。

アプリの効果を検証するため、台湾の小学校5年生46人を対象に2週間の実験が行われました。実験では、被験者は実験グループと統制グループに分割され、実験グループは、自己調整学習メカニズム付きのアプリを使って、統制グループは、自己調整学習メカニズム無しのアプリを使って、英単語学習を行いました。アプリでは、自己調整学習の要素が取り入られ、学習目標の設定、モニタリング、目標の意識付けなどの支援が行われました。

実験の結果、実験グループでは、統制グループよりも、高い学習パフォーマンスと学習モチベーションを示されました。さらに、アプリの効果は性差にかかわらず確認され、場独立型の認知スタイルを持つ学習者よりも場依存型の認知スタイルを持つ学習者の、学習パフォーマンスと学習モチベーションの向上に、より大きな利点があることが判明しました。このことから、自己調整学習のメカニズムが学習者の学習パフォーマンスとモチベーションの向上に大きく貢献したと考えられます。

最後に私の感想ですが、この論文では、自己調整学習理論やそのメカニズムを使用した英単語学習システムの評価を行っており、自分のシステム設計に大変に参考になると感じました。一方で、学習プロセスのデータを踏まえた考察があれば、より興味深いものになったと思います。例えば、両グループ間で学習時間や、1日あたりに学習した単語の数の比較など、ログに基づいて、なぜアプリが学習パフォーマンス向上に繋がるのかの知見が必要であると感じました。今後の研究では、こういった学習ログに基づいた学習者の学習行動の分析の知見を深めていきたいと思います。

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