最近、大変ありがたいことに、大学図書館・ラーニングコモンズ・学習研究に関するテーマで報告、セミナーにお招き頂いたり、私自身がコーディネーターを務めることもあります。今まで、「会いたくても、会う機会がなかった」方にもお会いできるようになりました。11月の図書館総合展では、青山学院大学の野末俊比古先生に、そして、12月8日に金沢で開催したセミナーでは、東京大学 駒場図書館の茂出木理子さんに会うことができました(茂出木さん、大荒れの中、東京から来て下さいまして、ありがとうございます)。ずっと前からお話してみたかった方々です。ありがとうございます。
私自身、大学図書館がもっと盛り上がって、学生だけではなく、教職員、みんなに喜ばれるような「学びの場」にするにはどうすればいいのか、考えています。私が学部生の頃、ESSで英語でディスカッションをし、情報収集や議論の筋の確認をグループ談話室でやっていましたが、グループ談話室を借りないと、こういう活動ができなかった時代から信じられないくらいの変化だと思います。
セミナーやシンポジウムで図書館職員さんたちとも意見交換をさせて頂く機会も増えました。私自身、名古屋大学・静岡大学・金沢大学附属図書館の学習支援のための3大学連携事業の関係で、名古屋大学の岡部課長が中心となって進めているインフォメーション・ライブラリアン事業にも協力させて頂き、名古屋大学附属図書館、静岡大学附属図書館の図書館職員さんとも話をしています。
これらのセミナーを介して、私が感じたことです。「もう既にそんなことわかってるよ」と言われるかもしれませんが、今後のラーニングコモンズを考えるにあたり、忘れてはいけないことだと思うので、書いておきたいと思います。
(1)図書館職員さんたちの中でも温度差がある
これは何でもそうなのですが、1つ何かものを成し遂げようと組織的に取り組む場合、職員さんたちの中でも意識に差があるということです。これは職員さんだけではなく、FDに対する教員の意識のように、教員でも同様のものです。「今までと同じでいいじゃないか」、「できるだけ今の仕事のままでいい」と思う図書館職員さんたちがいるのもありますし、ラーニングコモンズという言葉が出てきても、学習支援に対して、積極的ではない図書館職員さんも実は結構な数、潜在的に多くいます。しかし、ラーニングコモンズの建設という、巨額の投資をするわけです。もし大学内でラーニングコモンズを作るという話が出た場合、組織的に意識を統一する必要があります(なぜこの意識が必要だと考えるのか、後で説明します)。組織的にいやならば、ラーニングコモンズを作らない積極的な理由を挙げ、方向性を変換するように積極的に会議に付して欲しいと思います。「本学の教育方針にはラーニングコモンズは合わない、不要である」ということを客観的な情報を以て、説明する必要があるでしょう。また個人として業務が増えることが嫌なのであれば、人事配置というのは適材適所がありますので、配置希望を上司に伝える等するべきではないでしょうか。タチが悪いのは、せっかくすばらしいラーニングコモンズを作っても、ミニマムエフォートでしか動かない図書館職員がいるということです。これは私は非常に大きい、根深い問題だと認識しています。
(2)消えない箱物思想
一時期出てきた、eラーニングに対する「妄想」に似たようなことがあるかもしれません。「eラーニングをやれば、学生は授業外でも学習し、成績が伸びる、主体的になる」、「授業準備が楽になる」なんて妄想が広がった時期があります。もし、そんなことがもし仮にあるとすれば、大学の教職員は今頃、ずいぶんと楽できていますよね(笑)私ら教育工学研究者はもっと楽に研究できているのかも(爆笑)。そんなこと、あるわけないのです。学習というのは人の情意的行動です。箱だけ用意しても、そこにアクセスするかどうか、効果的な学習をするのかどうかは別の次元の話です。これはラーニングコモンズでも同様です。ラーニングコモンズがあれば学生が主体的になる!というのも、新奇性効果によって、最初は何か盛り上がることはあると思いますが、継続的にうまく使われていくのか、学習支援系サービスが続くかというとそうではありません。実際、「真剣」にラーニングコモンズにおける学習支援を考えている大学は苦労しているのです。「うちもラーニングコモンズ、作ろうと思っているんだよね」と思って、セミナー参加される方は多いのですが、その他大学の実情理解と、自組織の職員がどういう意識でいるのかは最初に理解した方がいいです。
(3)ラーニングコモンズの運営には継続的な評価活動・改善活動が求められる
最近、どこの大学でも「評価」という言葉が出てきていると思います。どこの大学図書館も、いろんなことをスタートしていると思いますが、それに対する評価活動・改善活動はどうでしょうか?その評価手法も含めて、検討はした方がいいです。学習支援策を1つのサービスとしてとらえるのであれば、サービス評価・改善は検討する必要が出てきます。企業ではそのサービス、そのサービスを提供する形式・媒体についても評価・改善をします。それが普通です。大学図書館が「学びの場」として学習支援を行っていくスタンスであるのであれば、必要なことになってきます。もし、学内に心理系の教員がいる場合はコンサルをお願いしてもよいでしょう(断られる場合もあります。気難しい教員もいますので)。ただし、何を調べたいのかを明確にした上で、質問紙(アンケート)作成の時から相談に必ず行って下さい。先にデータ回収をして、分析手法だけ相談に来られても、困ります。それを通じて、質問紙法、統計手法についても学習して欲しいと思います。教員に入ってもらいたい場合は教育・学習関係の共同研究提案も1つだと思います。これは(4)にも関係する話です。
しかし、カリキュラム改革、空間設備の充実化といった投資効果は、そんなすぐに現れるわけありません。私たちは小中学校の義務教育期間、さらには高等学校、大学においても、教育投資の効果に時間がかかることは経験してきているのです。そこは大学マネージメント層には絶対に理解してほしいことではありますが、現場に対しては、成果が出るには時間がかかること、量的・質的な評価も継続的に行い、変化を追うことをして欲しいと思います。必ずしも数値ではきれいに出ないです。また、学生の特質は年々変わるということは理解して欲しいところです。学生が触れるメディア、従来受けてきた教育経験などあります。私たちが受けてきた教育経験は通用しない部分が数あります。学習支援サービス案を検討する前に現状分析をすることをオススメします(度々、セミナー等でそのお話をさせて頂いております)。
(4)信頼ある教職連携へ
先日、12月8日に開催しました第10回大学教育セミナーにおいて、茂出木さん@東京大学がパネルディスカッションにて、教員と職員との信頼性の構築について話題を出されました。ラーニングコモンズを持つ大学図書館としては、学習支援を担当するようなセンター、FD関係のセンター、または外国語教育関係のセンター、地域連携関係のセンターなどと連携したいという想いはあるでしょう。「どうすればいいのか?」と質問される職員さんもいらっしゃいます。広報戦略を練って、広報活動を進めると同時に、各部局に適した図書館利用案や学習支援案を提案する「提案型営業」を行うことをオススメしております。ただ、それを行うにも、チャネルが必要になります。特に教員が主に参加している委員会において議事に付すには特に必要でしょう。ここはやはり草の根的に進めるのが良いと思います。具体的には、教育関係の研究者で、共同研究をするというフレームで話を持って行くというのは一案ではないでしょうか。
しかし、(1)で書いたように、信頼感ある継続的な教職連携をするには、図書館職員さんたちの統一した意識が求められます。「いやあ、上層部から言われているので・・・(仕方なしでやってるのかよ!)」、「私たちでは何もわからないので・・・(丸投げかよ!)」など言われると、相談に乗る教員側は当然、いい気分ではありません(これは教員じゃなくても、そうですよね)。話す相手によって姿勢が変わったり、担当している方が異動になり、後任の方の考えが変わったりすると、信頼感は一気に落ちます。特にセンター系教員は結構な高負荷な業務を行っているところが多いです。センター系教員も含めてですが、我々教員は外注企業ではありません。協力依頼をするのであれば、それなりの体制・意識の統一化を部長・課長級からちゃんとしてからにしないと、継続的な関係は築けません。
そんなところに、後ろ向きの話を持ってきても困ります。金沢でうまく行っていたのは、やはり岡部課長(現在、名古屋大学附属図書館 情報サービス課長)の熱意、変えたいという想い、様々なアイデア提案、共同研究をしていくという強い想いを感じたからというのは大きいです。「こういう職員さんがいるのであれば是非協力しましょう!」という思いになります。岡部課長のすばらしいことの1つは、「新しいことを学んで活かそう」というお考え、その行動力だと思います。これは我々教員も忘れてはならないことです。
以上、いろいろ思ったことを書きました。現実的に難しいという方も多いと思います。しかし、そう考えるということは、「学びの場」としてのラーニングコモンズを構築する土台ができていないということでもあります。継続的にすばらしい「学びの場」としてのラーニングコモンズを構築するには、それなりの苦労・業務負荷が伴います。それを踏まえた上で、ラーニングコモンズをスタートされると良いと思います。また、何か思ったことがあれば、書いていきたいと思います。