皆さん、こんにちは、学術協力研究員のカクです。
この記事では、今回の英語文献ゼミで取り上げた論文の内容と私の感想について紹介します。
論文タイトル: ICT in Supporting Content and Language Integrated Learning: Experience from Poland
論文誌:Information Technology for Development
巻数とページ: Vol. 21, No. 3, 403– 425
出版年:2015
著者名:Kate Roach , Emanuela Tilley and John Mitchell
以下は、論文に記載されている内容の概要になります。
この研究は、内容言語統合型学習(CLIL)における情報通信技術(ICT)の支援について、ポーランドのクラクフ経済大学の実例を紹介しています。CLILは学科内容と外国語学習を統合する教育手法で、学生が教科を通して外国語能力を高められる点で、グローバル化が進む現代において重要視されています。EU加盟を果たしたポーランドでは、他国の学生との交流や労働市場に対応した多言語教育が求められており、本研究はそのようなニーズに応えるものです。
この研究では、Moodleを用いたCLILを採用し、ポーランド語と英語の教材を提供することで、学生の言語能力と専門知識の両方をサポートすることを目指しています。具体的には、講義やワークショップをバイリンガルで実施し、学生が自分の選択した言語で学べるよう工夫されています。たとえば、講義資料や課題はポーランド語と英語で分離して提示され、学習者が理解しやすいように配慮されています。また、ディスカッションフォーラムなどのMoodleの機能も活用されており、学生同士や教員とのコミュニケーションを通して、言語スキルと異文化理解の向上が図られています。
この研究はDesign Research (DR)という研究手法を使っています。この手法は、Archer (1984)やEvbuonwan, Sivaloganathan, & Jebb (1996)によってエンジニアリングで導入され、その後、教育分野や社会科学など他の学問領域にも応用されています。DRにはいくつかの別称もあります。Design Experiments(デザイン実験)、Developmental Research(開発研究)、Design-Based Research(デザインベースドリサーチ)、Design Science Research(デザインサイエンスリサーチ)などです。
DRは、研究対象となる実践の課題に対して解決策や改善策を提案し、それを実践の中で検証し、さらに理論を構築・改善していくプロセスを重視します。このため、研究と実践の間のギャップを埋めるための重要なアプローチとして注目されています。
DRは、教育分野やeラーニングに関する研究で広く使われています。特に、eラーニングが普及する中で、効果的なeラーニングプラットフォームの設計は重要です。例えば、学習者の自律性とモチベーションを高めるためのインターフェースや機能を備えたプラットフォームをデザインし、使用実験を通じてその有効性を検証する研究が挙げられます (Amiel and Reeves, 2008)。研究の過程で、学習者からのフィードバックを反映し、デザインを改善することで、最適な学習環境を提供するための知見を得ます。
この研究では、DRを使って、Moodleを使ったCLIL授業を研究・分析しました。
まず、CUEにおいて非母語で学ぶ学生はコンテンツ学習と同時に言語能力を向上させる必要があります。この状況を対応するため、CLILを支援する教育フレームワークの設計が主な研究課題として設定され、学生の言語的背景や学習中の問題、ICT学習環境に対する期待とニーズを把握するための調査が行われました。
そして、CLILをサポートするパイロットフレームワークが設計されました。このフレームワークは、伝統的な授業形式とeラーニングを組み合わせ、Moodle上に二言語での教材を用意するなど、マルチリンガルの学生が効率的に学習できる構成が特徴です。
このフレームワークは、電子データ交換やプログラミングワークショップなどの科目に適用され、複数年度にわたって試行されました。フレームワークの改善に向けて、学生のフィードバックを収集するためにオンライン質問紙を実施し、学生の学習スタイル、学習上の問題、期待する教材やインタラクティブなリソースに関する要望について調査しました。
質問紙調査の結果では、98%の学生は、Moodleの操作が簡単であると感じていました。特に、課題の提出やフィードバックの確認、レッスンのダウンロード、クイズやオンライン課題などの機能が役に立つと評価されています。また、学生の多くはMoodle内のクイズやオンライン課題のツールを通じて自分の学習進捗を確認できることに満足しており、特に語彙や概念の習得に役立つと感じていました。
一方で、学生の77%が「よりインタラクティブなリソースが欲しい」、学生の74%が「教師とのやり取りの機会を増やしてほしい」と回答しており、学習過程でのコミュニケーションが重要視されていました。さらに、約75%の学生が「会話スキルを伸ばすことが重要」と考えていると回答しており、講義内容の理解を深めながら言語能力を高めるために、話す機会が増えるような活動が求められていました。
また、学習面での課題もいくつか指摘されました。例えば、学生は内容(コンテンツ)の理解に最も困難を感じていると答えており、特に専門用語が多く含まれる内容に対する理解が難しいと感じているようです。これに対応するため、Moodle上のクイズやピア評価が提供され、学生が自身の理解度を確認しながら学習を進める仕組みが用意されています。また、Moodleを使用した教育環境には多くの満足の声が寄せられており、週に数回、または毎日のようにフィードバックや教材の確認、成績のチェックに利用されていることが報告されています。
さらに、学習スタイルの違いにも言及されており、約40%の学生が読解/筆記的な学習スタイルを好む一方、約30%は視覚的な学習を重視していると報告しています。これを踏まえ、Moodle上の教材は読み書き型の学習者に配慮して整備されていますが、視覚的なリソースも追加されることが望まれています。また、学生の中には教材が多すぎると感じている意見もあり、特にバイリンガル教材を扱う際には、情報過多を避ける工夫が求められています。
こうした結果から、ポーランドのクラクフ経済大学で試みられたCLILは、言語スキル向上や異文化適応に有益であることが示されましたが、同時に教材管理や学習コンテンツの適切な難易度設定といった改善点も明確になっています。今後の研究では、ビデオやオーディオ教材の導入によるCLIL教育の効果検証や、他国での適用についても検討が進められる予定です。
以下は、私の感想になります。
私は以前、中国でのCLILの実践でMoodleを使ったことがあるので、CLILにおけるICTの活用についての論文を見てみたいです。最も心に響いた点のひとつは、ポーランドのCLIL授業では、読解や視覚的な学習スタイルに配慮し、Moodleを使った教材提供やクイズ形式での学習が効果的に機能していると評価されています。一方で、中国ではまだ一斉講義が主流であり、個別の学習スタイルに応じた教材提供が進んでいないため、より多様な学習ニーズに応える工夫が期待されます。ポーランドと中国のCLILの事例を通じて、異なる言語環境と技術基盤がCLIL実施に与える影響を感じるとともに、各国の教育ニーズに応じた柔軟なCLILの導入が望まれると思います。