九州大学 山田研究室

何のための査読なのか?ー最近の国際誌における教育工学系論文査読について感じること

2024年09月30日

この話は教育工学系の論文誌(国際誌)や国際会議の査読について私が「個人的」に感じていることなんですけどね、最近、査読コメントがよくないなと思うことが増えました。私が見ている範囲の話だけかもしれませんけどね。国内は最近はよくわからないですけど。これは論文投稿者としてだけではなく、自分が査読をしていて、他の査読者がした査読結果も見えるので、それを踏まえて、そう感じています。

査読って、学術領域の発展に貢献する1つの研究活動です。査読した論文や国際会議原稿がどうなれば良くなるのかを説明し、科学的で論理的なコミュニケーションを投稿者とすることが査読です。最近、論理性・科学的な点が欠けた査読コメントも多いなと思います。

私はラーニングアナリティクス関係の研究をしているので、ラーニングアナリティクス関係の査読が回ってくることが多いのですが、最近、ラーニングアナリティクス系の論文査読コメントで多いのが「Nが少ない」というもの。それを指摘するのは容易です。修士学生でもゼミでできちゃうレベルのコメントだなと思います。ですが、どうしたらその論文や国際会議は良くなるのか?というところを説明し、その対応をしてほしいとコメントするのが査読者の役割です。Nが少ない時によく取られるのは、ノンパラメトリック検定や質的研究であることが多いと思います。査読者は著者が書いた研究目的に照らし合わせて、それではなぜダメなのか?を説明しなければなりません。「Nが少ない。なので、言えることは限定的ですよね?」と指摘するならば、ちゃんと伝えなければならないことは、Nが少ないことではなく、ノンパラメトリック検定や質的研究では研究目的を達成するのに不十分であるということを論理的に、説得的に著者に説明することが極めて大事だと思います。最近、そういうことを説明する研究者、減ったなと思います。「Nが少ないです」これだとただただ、著者たちへ絶望を与えるだけですよね。よくないなあ。

あと「先行研究レビューが欠けている」系です。これは著者の書き方が悪いから、そういうコメントがつくという面も少なからずあります。論文のオリジナリティに関わることでもあるので、重要な点なのですが、査読者の責任として、それを指摘するなら、「なぜ先行研究レビューが欠けていると思うのか」を説明しなければならないです。たとえば「〜という筋で論を展開するならば、Aという研究があなたの研究には関わるが、A関係のレビューが欠けています」など、「なぜ、どのような先行研究レビューの追加が必要か」その説明が必要です。ここは論文のオリジナリティや動機など根幹に関わるところで、これだけでRejectにもなり得ますから、丁寧な説明が求められると私は思います。

私は過去に国内でも編集を長年やっていたこともありましたが、その中でも依頼された論文、ほぼほぼ一発不採録にする査読者もいて、そういう査読者に限って「え?なんじゃそら!」と言いたくなること書いてくる査読者もいます。「専門性が高い」ということと「優れた研究者」ということは一致しないこともそこそこあるなと感じたこともあります。国内にも残念ながらそういったケースがあったりします。ただ、私がその学会の編集委員会を辞めたあたりからは、論文種別によって査読方針も決めていて、とてもいいことだと思いました。

査読はたいていボランティアであることが多いです。日本の場合は多くの校務があり、自分の研究時間もあり、そのなかで査読をやっている方々が多いです。それは大変頭が下がります。しかし、自分の時間も大事なのですが、引き受けた以上はその査読結果に自分のキャリアがかかっている人たちもいるわけなので、採否判定は別として、どうしたらこの論文、研究が良くなるのか、という目線で、投稿者との論理的なコミュニケーションが求められるように思います。

ということで、査読を通じて、研究者は、研究者としてのレベルアップはもちろんのことですが、学術領域へ貢献するとはどういうことなのかということを学ぶことが必要だなと感じます。教育工学という研究領域を盛り上げて、よい研究知見を国際的に広げて、よい研究コミュニティをつくっていくためにも、私ができることは小さいですが、うちの学生たちにはそういうことの大切さを研究指導の中で伝えていきたいと思います。地味ですが、こういうことが広がり、世代を越えて、研究を発展させていくことになるんだろうと私は信じています。若手の研究者は査読をどんどんやって、研究の視野を広げ、研究能力を磨いてほしいなと思います。それは自分の研究を進めていく力にもなっていきますし、研究領域における自分のプレゼンスを高めていくことにもなっていきます。

もうそろそろ50歳の壁が見えてきて、私個人ができることで学術領域に何が残せるのか、小さいながら、将来の研究者育成を進めて、考えていきたいと思います。

PAGE TOP