九州大学 山田研究室

15歳のキャリア選択に影響を与える学習の環境とは?

2024年08月19日

みなさん、こんにちは。修士1年の尾﨑です。
今回の英語文献ゼミで取り上げた論文の内容や感想について紹介します。

論文情報
論文タイトル:Youth STEM career choices: What’s influencing secondary students’ decision making
出版:Issues in Educational Research
巻数・ページ:30(2).593-611
出版年:2020
著者名:Murcia Karen, Coral Pepper, and John Williams.
https://search.informit.org/doi/abs/10.3316/informit.266265177906130

 課題
科学、技術、工学、数学(以下STEM)に関する学びについて、年々需要が加熱しています。筆者は青少年期(概ね15歳)について、自分自身のキャリア関連の目標を確立する重要な時期であり、どういった学習環境がSTEMに関するキャリア選択に影響するのか明らかにする必要があると述べています。

先行研究
社会認知キャリア理論(SCCT)において、キャリア選択行動は興味や自己効力感に影響を受けるとされており、自己効力感は代理学習(他者の経験の観察)や社会的説得(周囲の励ましやサポート)などの環境要因にも左右されると言われます。
先行研究より、中等学生のSTEMキャリア選択に関して考えられる重要な要素と懸念点として、以下のとおりです。
・生徒本人について
STEMキャリアへの興味関心を高める手段として、親や教師、子供たち同士の間でSTEM分野について話し合うこと及び、自分自身の主体性や能力に関する信念を構築することが有効である。一方、生徒の性別がSTEMキャリア選択へ影響する可能性があります。
・キャリアカウンセラーについて
生徒へのカウンセリングや学習機会の企画などの働きかけ及び、学校システムの変更を行うことができる立場にあり、カウンセラー自身がSTEMや21世紀のキャリア関係の機運について認識を高める必要がある。一方で、カウンセラー自身のキャリア分野に関する関心の偏りがある可能性や、現在のキャリア動向にアクセスできていない可能性も示唆されています。
・保護者について
両親の属性(STEMキャリアに就いているかどうか等)や子どもが「両親は自分の関心や努力について奨励してくれている」という認識を持っているかどうかが、子どものSTEMキャリア選択へ影響を与える可能性があります。

研究目的と方法
目的:社会認知キャリア理論に基づき、STEM キャリアに関する若者の選択に影響を与える要因の調査を行う。
研究課題:
①学習環境は生徒のSTEMキャリア関心と自己効力感にどのような影響を与えるか?
②STEMに対する保護者の態度とキャリアリソースへの関与は、生徒のSTEMキャリア関心と自己効力感にどのような影響を与えるか?
③キャリアカウンセラーのSTEMへの認識と関与は、学生のキャリア関心にどう影響するか?
対象:オーストラリアの3つの中等学校より
・キャリアカウンセラーによって特定された、STEM科目やキャリアに興味がある10年生(日本の高校1年生にあたる学年)5名ずつ。(n=15)
・各学校グループ生徒の保護者。(n=15)
・各学校のキャリアカウンセラー1名ずつ。(n=3)
方法:生徒、保護者、カウンセラーそれぞれのグループへの半構造化インタビュー。
分析:記録を転写した後、データを数回読み込み、オープンコーディング、次に軸足コーディング(アキシャルコーディング)を使用し分析を行います。主要なテーマを特定できるようにし、3つのデータは分析のために統合されています。

 結果
会話のコーディング後、インタビューデータ全体で4つの主要なテーマが特定されました。
1.STEM キャリアの選択への影響
学生は親のサポートを全員が高く評価しており、学校の強みや興味に合致したSTEMキャリアを続けるつもりであると述べています。
→これらの学生は自己効力感と職業的アイデンティティを育んでいると考えられます。
2.STEM リソースとサポートへのアクセス
キャリアカウンセラーは、学生と保護者を対象にキャリアイベントを主催し、ゲストスピーカー等から時勢に応じたSTEM キャリア情報を提供しました。
→キャリアについて生徒と保護者の間での有意義な会話と、生徒の自己効力感の育成を促進しています。
3.STEM キャリアを重視しているか?
・カウンセラー自身のSTEMキャリアへの偏見の可能性があるという示唆は本研究では明らかでなく、むしろカウンセラーは自らSTEM分野の情報を把握するよう努めていました。
・親たちは、子どもが自分の興味や強みに沿ったキャリアに移行してほしいという願望を述べています。
・性別に関連したSTEMキャリア機会についての懸念はほとんどなく、キャリアとジェンダー研究に特化した文献とは対照的でした。一方、高等教育の科目やキャリアのためSTEM科目を選択し始めると、男子の方が高くなる可能性もあります。
4.STEM キャリアの将来を構想する
・カウンセラーは、学生のキャリア自己認識のために、キャリア教育を他の科目に組み込むことを奨励しました。
・学生たちは現在存在しないキャリアに向けて準備をしているため、キャリアの意識や開発活動に参加する機会がないのではないかという参加者の懸念もありました。

 結論
①学習環境は生徒のSTEMキャリアへの関心と自己効力感にどのような影響を与えるか?
・生徒たちは、STEMに重点を置いた教師の授業、キャリアカウンセラーやSTEMゲストとの対面での会話に感謝していると述べています。
→これらにより、彼らのスキルと強みが確認され、自己効力感が高まり続けたと考えられます。
・生徒はSTEMキャリア情報にアクセスすることが楽しいと述べる一方、科学センターへの訪問がSTEMや将来の職業選択に関連するとは考えません(学生と保護者:「楽しかったがそれはキャリアプランの検討よりずっと幼い時期に行われた」)。
STEMの体験や将来のアイデンティティを描く機会の効果は、タイミングと、経験に対する若者の関心の重点にかかっている可能性があることを示唆しています。

②STEMに対する保護者の態度とキャリアアドバイスリソースへの関与は、生徒のSTEMキャリアへの関心と自己効力感にどのような影響を与えるか?

・親自身のSTEMキャリアと、生徒の関心との間に強い関連性があり、すべてのカウンセラーは、親が子どもにキャリアへの影響をもたらすと認識しています。
保護者は、キャリアカウンセラーとの関わりや学生へのサポート、STEMキャリア教育を高く評価しました。STEM学習の重要性にも留意しており、子供たちが21世紀の職場で成功するためにはSTEMスキル習得が重要であると認識していました。

③キャリアカウンセラーのSTEMへの認識と関与は、学生のキャリアへの関心と自己効力感にどのような影響を与えるか?
・カウンセラーは、「自分たちの役割はSTEMに限らずあらゆるキャリア選択にわたり学生をサポートすること」と答えました。それでもSTEM関連の最新の情報を保ち、STEMキャリアの機会に精通するよう努め、STEM業界の代表者訪問やキャリア機会を企画し、学生を支援する意欲を示しました。
・学生のSTEMの強みを探し、キャリア選択肢を高めるため、困難なSTEM科目に取り組むことを奨励しました。これはカウンセラーが学生のSTEM学習とキャリアを重視することによる価値を示します。

感想
自分の研究を進めるにあたって、質的研究の方法やキャリア教育の動向について調べたいと考え、この論文を読みました。「STEM教育とキャリア選択」というテーマに関して、先行研究から特定すべき要因を抽出し、少人数に対して多角的なデータを収集して分析・解釈していく流れや方法について、大変参考になりました。
自分の研究と照らし合わせて考えると、「対象をどのような根拠を持って設定するか」「研究課題を解決するために、どのような量的・質的なデータを組み合わせて考えるべきか」「ICTをどのように活用して新しい成果を出せる研究にできるか」といったことを今後より深く考える必要があると感じました。

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