九州大学 山田研究室

ブレンデッドラーニング条件下の問題解決学習:MLAの活用

2024年05月29日

みなさん、こんにちは。

今回の英語文献ゼミで読んだ論文について紹介します。

論文のタイトル:Deploying multimodal learning analytics models to explore the impact of digital distraction and peer learning on student performance.

論文誌:Computers & Education

巻数:VoL.190, Article 104599

著者:LIAO, Chen-Hsuan; WU, Jiun-Yu

出版年:2022

https://doi.org/10.1016/j.compedu.2022.104599

下記はこの論文の概要です。ご興味がございましたら、ぜひお読みください。

この論文は、ブレンデッドラーニング環境における問題解決型学習(PBL:Problem-based Learning)を深掘りし、特にソーシャルメディアの使用が学業成績にどのような影響を与えるかを調査しています。マルチモーダルラーニングアナリティクス(MLA:Multimodal Learning Analytics)を活用して、デジタルディストラクション(digital distraction)と呼ばれるデジタル機器による干渉が生産性の低下や精神的・感情的健康への悪影響に及ぼすこと、ピアラーニングの志向性、及びその実際の参加度がどのように学業成績に関連しているかを分析されています。研究には51名の大学院生が参加し、彼らのFacebook上での発言からデータを収集し、機械学習を用いてその発言が統計的に意味あるかどうかを調査しています。

具体的な分析手法として、過去数年間にわたる学生のFacebookデータをトレーニングセットとして使用し、現在の学生の発言が以前のデータとどの程度統計的に関連しているかを機械学習モデルによって予測したとありました。また、個々の学生の特性、Facebookの使用状況、ピアラーニング志向(自己報告によるピアラーニングへの傾向)、およびピアラーニング関与(仲間同士の学習関与は客観的な指標であり、Facebook上の私的な学習コミュニティにおけるディスカッション・メッセージを統計に関連するメッセージと関連しないメッセージに分類する機械学習分類モデルによって定量化されたもの)が学業成績にどのように影響するかを同様に機械学習モデルで予測したということです。この分析から、ピアラーニングへの積極的な関与が多いほど学業成績が良好であることが示され、ソーシャルメディアが社会的な学びの場として効果的であることが確認したとありました。この研究では、調査やアンケートを含む豊富なデータを活用し、特定の教育的要素が学業成績にどのように影響するかを明らかにしました。具体的には、PBL環境における学習者のピアラーニング関与を客観的かつ正確に測定し、主観的ピアラーニング志向よりもブレンドPBL学習成績に対する予測妥当性が強かったことを示しました。

さらに、この研究はデジタルディストラクションが学業成績に与える負の影響にも焦点を当てています。学生たちがどの程度デジタルの誘惑に晒されているか、そしてそれが学業成績にどう影響するかを評価することで、教育者がこれらの課題にどのように対処すべきかの示唆を与えています。デジタルディストラクションを低減させ、ピアラーニングを促進するための戦略が、ブレンデッドラーニングの文脈で如何に重要か主張されています。この研究から得られる知見は、教育技術の適用において、より効果的な教育戦略と介入を設計するためのヒントが得られます。

以下は私の感想です。

この研究では、ブレンデッドラーニングの環境下で問題解決型学習を実施している学習者の学業成績を予測するために、ピアラーニング、ソーシャルソフトウェアの使用、注意散漫、および学習者の個々の違いなど、多岐にわたる要因を検討するマルチモーダルアプローチを採用しています。このアプローチでは、異なる視点からの複数の変数を組み合わせ、どのようにこれらが学習者の成績に影響を与えるかを探求します。具体的には、学習者がどの程度ピアラーニングに積極的に参加しているか、また、ソーシャルメディアツールをどのように利用しているかが、その学業成績にどのように反映されるのかを分析します。

さらに、本論文ではこれらの要因が学業成績に及ぼす具体的な影響を、実際のデータとともに示しています。ピアラーニングへ志向やその関与の度合いが高い学習者は、一般により良い学業成績を達成する傾向にあります。また、分析にはマルチモーダルラーニングアナリティクスと機械学習の技術を活用し、異なる教育要因が学業成績に与える影響を細かく検討しています。この方法により、従来の研究では見過ごされがちだった微細な影響まで明らかにすることが可能となり、教育分野での新たな活用が期待されます。

しかし、いくつかの疑問点を持っています。この論文では、ブレンデッドラーニング環境下での問題解決型学習(PBL)の各要素が学業成績に与える影響についてMLAを使用して多角的に分析しています。ただし、実際にどのようなPBL課題が設定されたのかや、機械学習モデルの具体的な作用メカニズムについての説明が不足しており、その点で明確さに欠けています。これは結果に強く影響するので、ここを明確に説明しないと、結果の妥当性も判断できないと感じます。加えて、どのPBL要素が特に影響力を持っていたのかの詳細な分析が必要だと思います。また、過去数年間に学生たちがFacebook上で行った発言をデータセットとして利用しています。これらのデータを用いて、現在の学生が行う発言がどの程度統計的に関連しているかどうかについて機械学習を用いて予測し、人工的に行われたコーディング結果と比較を行っています。このプロセスの目的や、その教育的な意義については十分には説明されていないと考えております。興味深い論文なのですが、不明確な点も同時に多く感じた論文でした。

教育現場でのMLAの実用化はまだ初期段階にありますが、私は異なる要素の相互作用が学業成績に与える影響について探求することに関心があります。MLAの魅力は、特定の特性をより詳細に表現できる様々なデータセットを利用する点にあります。今後、この分野のさらなる研究論文を読むことで知見を深めたいと考えています。

(文責:修士2年生 李瑭

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