みなさん、こんにちは。M2の李瑭です。
今回の英語文献ゼミの論文について紹介いたします。
私は擬情語の学習を支援するVRシステムの開発研究をしているのですが、ついこないだ形成的評価を終えました。このシステムでは、VRヘッドセットを使用して、学習者がシステムを操作する際の視線データを追跡できます。これは、私が開発したVRシステムを通じて学習者が擬情語をどのように学習しているかを分析する際の重要な指標となると考えられます。しかし、視線データを学習分析にどのように利用するかという新しい課題にも直面しています。そこで、今回の英語文献ゼミでこの記事を選んだのは、視線データの活用方法についてのヒントを得るためでした。
論文のタイトル:Identifying the Effects of Scaffolding on Learners’ Temporal Deployment of Self-regulated Learning Operations during Game-based Learning using Multimodal Data.
論文誌:Frontiers in Psychology, 14, 1280566.
著者:Daryn A. Dever, Megan D. Wiedbusch, Sarah M. Romero, Kevin Smith, Milouni Patel, Nathan Sonnenfeld, James Lester, Roger Azevedo
発行年:2023
下記はこの論文の概要です。ご興味がございましたら、ぜひお読みください。
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2019年の米国国家教育進歩評価(NAEP:National Assessment of Educational Progress)の報告によると、学年が進むにつれて学生の科学成績が低下していることが明らかになりました。この問題に対処するために、伝統的な教室指導とゲームベース学習環境(GBLE:Game-Based Learning Environment)の組み合わせが、先進的な学習技術としての可能性を示唆しています。しかし、教育技術の利用に関する別の報告では、教師の約33%のみがその効果を強く支持しているという結果が出ています。
本研究では、GBLE内での足場かけ技術が、学習者の自己調整学習(SRL:Self-Regulated Learning)プロセスと学習成果にどのように影響するかを探究しており、マルチモーダルデータに基づく分析を通じて、効果的な足場かけ方法を提案しています。自己調整学習のアプローチとして、Winne(2018)のCOPESモデルに基づくSMART操作を採用し、検索(学習者がタスクに取り組む際に特定の情報に注意を向けること)、モニタリング(特定の情報を基準と比較すること)、組み立て(関連する情報が特定されたら、それらを関連付けること)、再確認(作業記憶が情報を能動的に保持し再度確認すること)、翻訳(情報が現在の問題表現に当てはまらない場合、解決策を見つけるために情報の処理方法を変更すること)の5つの認知操作を含む作業記憶と長期記憶との相互作用を考慮しており、GBLE内での学習者と教材の相互作用や情報処理方法を理解する基盤となる。これらの操作は、学習者のSRL方略の効果的な使用を促進します。既存の研究では、これらのSMART操作の自動検出が学習成果予測に有効であることが示されています。
94名の学部生を参加者とし、「完全エージェンシー」と「部分エージェンシー」の条件にランダムに分け、SMART操作の使用を分析しました。結果として、足場かけを受けた学習者は、足場かけを受けない学習者と比較して、SMART操作の効果的な展開と学習成果の向上が示されました。また、GBLE内で提供される足場かけのレベルと学習者の全体的な学習成果との関連づけるマルチモーダルデータを用いて分析しました。足場かけを受けた学習者は、エージェンシーが制限されていたため、SMART操作を有意に少なく行い、特に検索操作において顕著な違いが見られました。また、SMART操作間の遷移確率においても、足場かけを受けた学習者はより多様な操作を使用し、効率的な学習プロセスを実現していました。これにより、特定のSMART操作間の遷移が学習成果に与える影響が明らかになり、それに基づいて学習者がSRLをより効果的に行えるような指導が必要であることが示されました。
しかし、研究の方法論では、視線追跡やログファイルでは特定のプロセスを分離できないため、組み立てと再確認の操作を1つの行動として考慮し、2つの操作間の遷移確率を特定するために使用されました。将来の研究では、学習者の過去の行動が時間経過と共に遷移確率にどのように影響するかを理解する必要があると考えられます。また、この研究の発見は、SRL分野に新たな視点を提供し、GBLE内での足場かけの実装や学習者のSRLのSMART操作の効率的な使用に関する今後の研究方向性を示唆しています。
以下は私の感想です。
この論文では、視線追跡とログファイルを用いた学習過程での学習者の行動データの収集・分析手法について紹介しています。特に、SRLのSMART操作に基づく各アクションで必要とされるデータを取る手法(例えば、視線追跡やログファイル)を具体的に示しています。このアプローチにより、各ステップにおける学習者の行動や成果をより明確に理解し、情報に基づいた分析が可能になります。私にとって、この分析アプローチは根拠があり、データ分析におけるルールやパターンの適用方法に対する解答を提供してくれると考えています。また、この論文から「視線追跡」の活用に関するヒントを得ました。私の視線データは、「学習者の視線位置を動画で記録し、可視化する」という方法で表現されています。この論文を読むことで、そのデータの活用方法についてのヒントを得ることができました。
しかし、この論文にはいくつかの疑問点があります。論文ではGBLE(ゲームベースラーニング環境)を用いた学習支援のためにSRLのSMARTアプローチを提案していますが、自己調整学習の必要性やSMARTモデルを選択する利点についての明確な説明が欠けており、なぜこのモデルが選ばれたのか疑問が残ります。また、SRLにおける足場かけの有無が、学習者の現在の微生物学知識レベルに応じてどのように影響するかについての詳細が不足しています。著者らはこの点について十分な説明をしておらず、足場かけが全てのレベルの学習者にとって有効であるかどうかは明確ではありません。
さらに、この論文では、学習者の「コンセプトマトリクスの提出」と「ポスター、書籍、研究論文の閲覧」におけるデータ収集と分析に視線追跡を利用したことについて述べられています。ただし、「コンセプトマトリクスの提出」と「ポスター、書籍、研究論文の閲覧」はやや控えめな表現かもしれません。なぜなら、学習者のマウスの動きをモニタリングすることでも同様の情報が得られる可能性がありますから。しかし、「コンセプトマトリクスの提出」や「ポスター・書籍・研究論文の閲覧」のデータ収集・分析は、それ自体が重要な意義を持っていると考えます。視線データは、学習者が何を見ているかを判断するだけではなく、瞬きや凝視などを通じて、学習者の現在の学習状態や行動を示唆することができます。今後、学習者の視覚的な行動がラーニング・アナリティクスにどのように組み込まれるかに関する研究が非常に楽しみです。
最後に、この論文を読んで感じたことがあります。自己調整学習の専門家ではないが、学習者が自己調整学習を進める能力を制限しないようにしながら適切な支援を提供することの難しさを感じています。自己調整学習プロセスでは、学習者は自身の学習習慣やスタイルに従って新しい知識を学びますが、不必要な手助けが逆に学習を妨げる可能性があります。したがって、足場かけを提供する際には、学習者自身の知識やニーズを考慮することが重要です。適切な足場かけの方法については、今後の研究で明らかにしていきたいと考えています。