九州大学 山田研究室

実用性と実践性を重視:VR技術の活用による心肺蘇生法トレーニングの進化

2023年05月22日

みなさん、こんにちは、M1の李瑭です。

今回の英語文献ゼミの論文について紹介いたします。

以前の記事で取り上げた通り、私は言語学習におけるVR技術の活用に関連する研究をしています。しかし、VRを活用した言語学習環境の論文など同種類の論文ばかりを読むと、VR技術に対する理解や知識が制限されてしまうと感じました。そこで今回は、教育分野におけるVR技術の役割をより広く深く理解するために、CPR技能トレーニングにおけるVR技術の活用に関する論文を選んでみました。

論文のタイトル:Immersive virtual reality-based cardiopulmonary resuscitation interactive. learning support system.

論文誌:IEEE Access, 8, 120870-120880.

著者:Yang, C. H., Liu, S. F., Lin, C. Y., and Liu, C. F

発行年:2020

下記が本論文の概要になります。もしご興味がありましたら、ぜひ本論文をお読み下さい。

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心肺蘇生法(CPR)は心停止時に非常に重要であり、死亡率や脳損傷の軽減が期待できます。従来のCPR教育方法には、指導者の教育スタイルのばらつきや、学習者が胸骨圧迫の正確さを十分に理解できないなどの問題があります。これらの問題を解決するために、研究者たちは様々なCPR学習支援システムを開発しましたが、これらのシステムにも一定の制限があります。

本研究の目的は、CPRトレーニングの効果を向上させるために、VR技術を利用した没入型CPR学習支援システムを開発することです。VR技術は、ユーザーに没入感のある学習体験を提供し、触覚インタラクションやゲームベースの学習を通じて学習者を刺激します。さらに、センサーを使って自己学習が容易に行え、圧迫力の大きさや圧迫の深さをモニタリングし、適切なフィードバックを提供することで、学習の正確さを確保できます。

その結果、CPRのパフォーマンスが大幅に向上し、参加者の圧迫頻度と圧迫力の誤差が有意に減少しました。また、質問紙の結果から、多くの人がCPR学習システムに満足していることが示されました。提案システムは、インタラクティブなゲーム形式で没入型の学習を提供し、学習者がCPRの技術を向上させることができると示唆された。しかし、提案システムでは胸骨圧迫のみがシミュレーション可能であり、AEDのシミュレーションができないことが挙げられます。

私がこの論文を選んだ理由は、VR技術の特別さ、つまり現実状況をシミュレートして技能を練習することができる特性が示されているからです。学習者は、心肺蘇生の技能を実際の現場のように練習でき、現実の患者に遭遇した際にも、学習したCPR技能を容易に引き出すことができます。

また、この論文では、VR技術が学生の興味を高めるだけでなく、現実状況に基づいて効果をもたらすことがわかりました。つまり、VR技術は現実のシチュエーションを模倣していますが、現実のシチュエーションでは直接見たり理解したりすることができないもの、例えば圧迫力の大きさや圧迫の深さなどを具体化します。これにより、学習者は練習の繰り返しを行うことがなく、具体的な数値と力を加えた時の体の感覚に基づいて迅速に技能を習得することができます。これらの知見は、今後のVR関連研究に役立つかもしれません。

この論文については、参加者がシステムを一度だけ使用し、遅延テストが行われず、CPR技術の習得が確認されていないため、システムの有効性を確認するとは断言できないと思われます。また、システムの効果については、どの要素がシステム自体の効果を高めているのかについて議論されていないため、単に事前テストと事後テストの結果に基づく有意な差を判断するだけでは不十分と思われます。私の見解としては、システムの有効性を検証するためには、システムの有用性や、システムが引き起こす認知負荷など、さまざまな観点からシステムの有効性を検討すべきだと考えています。また、この研究の位置付けは、CPRの学習におけるコスト削減を目指していますが、教育工学の観点から見れば、提案システムが教育改善を目指しているわけではなく、より情報科学的な研究と感じます。これは、同じ技術を使用しても、分野によって研究の位置付けが異なる可能性を示していると私は考えています。

とはいえ、この論文を読むことで、VR技術が教育支援の分野で非常に重要であることを深く感じました。それは学習者の学習意欲を高めるだけでなく、教育に関連する問題をVR技術の特性に基づいて解決できると、VR技術の潜在力を十分に発揮できると思います。私も、そのような研究に貢献できることを心から望んでいます。

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