九州大学 山田研究室

ラーニングコモンズについて考える

2010年09月08日

5月22日に東京大学情報学環・福武ホールで、山内先生(編)の「学びの空間が大学を変える」出版記念セミナーが開催された。私はは所用があり出席できなかった。とても残念!行きたかったなあ。

学びの空間が大学を変える 出版記念セミナー
http://blog.iii.u-tokyo.ac.jp/ylab/2010/05/post_227.html

山内先生がTwitter上で「ラーニングコモンズに興味がある大学が多いこと」と「学習支援をどうするかが重要で、その共有が求められる」旨をつぶやかれていました。ラーニングコモンズはそれ単体の空間だけを考えれば良いのではなく、図書館全体として、空間の配置、設計を考えなくてはいけません。書庫、一般書架など紙メディアに触れることもでき、インターネット上の情報にも触れることができる。そして、1人で学習したい人たちと協調的に学習したい人たち向けの空間分けも考えなくてはなりません。突如、奇妙な空間が現れても変なものですよね。ラーニングコモンズにおいては、空間的な部分としては、各大学が抱えている教育上の問題が違うので、どんな空間があっても良いと思うのですが、きついのはその学習支援。特に人的支援の部分です。
最近、どこの大学もそうなのだと思うのですが、入れ物にはお金は出してくれるのですが、人にはお金をなかなか出してもらえません。昨日、龍馬伝の再放送「収二郎、無念」の回でも、武田鉄矢がやっている勝海舟も「船に金は出すが、人には金は出さねえって言ってきやがった」と怒って言ってました。「あー、わかるわかる」と共感してしまいましたがw
金沢大学が今回、山内先生のご協力もあって、無事にラーニングコモンズを作り、オープンすることができましたが、それまでに私も図書館関係の雑誌、論文を国内外レビューしたんです。その中で山内先生のつぶやきについて考えていました。
学習支援が重要であることはラーニングコモンズを運営している大学図書館はわかっていて、ラーニングコモンズが大学図書館雑誌でも数年前からレビューされている通りなのですが、図書館固有の問題があって、それがうまくできていないように思います。
まず、図書館にはお金がかかると言うことです。第一の問題としては近年も話題に挙がっている、電子ジャーナルの問題です。これは図書館の問題と言うよりも業界の問題ですね。電子ジャーナルは毎年、種類が増えていきます。研究領域によって、よく読まれるものとあまり読まれないものがあります。図書館としてはもちろん、よく読まれているジャーナルだけ契約したいという気持ちはありますが、学内の教員もみんながみんなメジャーな研究領域にいるわけではないですし、電子ジャーナルを提供している企業側もあまり読まれていないジャーナル分の赤をなんとかしたいので、そういう契約はできないようになっていることが多いです。まとめて契約となります。論文誌数は毎年増えていきますので、毎年契約料金は上がることになります。そこに、さらに人的支援のお金を出してほしいと上層部に言うのはなかなか難しいことになるかと思います。他の部局から文句が出るということになります。

ラーニングコモンズを主軸に、全学支援を受けている、またはGPを取ってる(GPも大学でとるわけで、面接も学長が行くわけですから、全学支援ですね)大学はアメリカの図書館のようにライティングセンターやキャリアセンターを作ったり、学生を組織して、学習支援をさせたりしていますので、まだ良いとは思いますが、普通、図書館の人的支援にお金を出すのは苦しいです。
また図書館職員の削減と外注という強い流れですね。図書館職員は今まで、ペーパーメディアを中心とした情報管理という点での専門性を発揮してきました。1980年代から挙がったインフォメーションコモンズもあり、情報リテラシー教育の場として図書館はあり、図書館職員の力は発揮されてきたわけです。しかし、図書館職員、図書館業界の中ではそれは認められていても、外部にはなかなか伝わっていないところがあるように思います。図書の貸し出し業務という目があり、そういう業務であれば、専任職員じゃなくてもいいという学内の判断があります。この動きは全国的に広がっており、今、図書館職員の専門性が問われています。

ラーニングコモンズは情報だけではなく、学習者の学びをマネジメントするという意味合いがある場(井上真琴さん@同志社大学のお言葉。ご著書、頂きました。ありがとうございました。)ということであれば、その学習のマネジメント支援についても図書館職員の1つの専門性となっていいわけです。ですが、これもすぐに定着させることは難しいでしょう。今まで、教育工学や学習科学などで出してきた学習支援に関する研究知見や実践の知見を知らないわけですから、それを付け焼き刃でやっても、厳しいことになると思います。ただ、学習支援まで専門性を広げてやるからには、しっかり学習しないといけませんし、図書館職員も学習しないと、さらに厳しい立場に追い込まれることになるでしょう。図書館職員の専門性については大学図書館関係の雑誌でも議論されています。大学図書館系の雑誌を読んでみると、学習支援の効果まで検証してはいないのがほとんどでした。その組織の運営や来館者数の変動について説明されているものがほとんどです(図書館にとっては来館者数の減少が大きな問題でしたので、そういうお話が多かったと思います。それもかなり大切なことなのですが)。
図書館職員の方々が経験的に動かれている背景も、学内の部局と連携しにくい組織立てになっていることもあるのかもしれません。部局は基本的に自分の所轄以外の業務負荷が高くなることを当然嫌いますから、図書館以外の部局からの協力を願うことは難しいことなのかもしれません。おそらくラーニングコモンズを作っても、他の部局は図書館に無理な要望を出すばかりで、実質何も動かないというのがほとんどなのではないでしょうか。もちろん、要望を言う側は図書館は何をできるのかということも把握していないと思います。どこの学内組織が管理をしているのかも。学習の場としての図書館、ラーニングコモンズを利用した学習を各部局が理解をして、自分たちの部局にもプラスになるということを伝えないといけないですね。
ラーニングコモンズを全学として支援していくという体制作りが必要になりますし、そのためには様々な部局から協力してくれる方を集い、研究会などをすることが大切になります。またラーニングコモンズという巨額の投資をするわけですから、その有効利用のために、必要なことを整理して、体制も検討して、上層部に伝えないといけないですね。調査、効果検証を行い、上層部が理解できる形で伝えないといけないですね。また成果報告も図書館業界内だけで共有していること自体が問題なのかもしれません。図書館は情報管理系と強い関係がありますので、情報処理、情報工学系統の学会で多少なり、知見が報告されていますが、学習支援となると「情報系を中心に・・・」というわけにはいかないと思います。教育系の学会は数多くありますので、そこでの知見を、ラーニングコモンズを持つ、また持ちたい大学と連携して、成果を報告し、共有する姿勢、その先には一つの領域を作るくらいの勢いを持ってやっていってもいいのだと思います。
何を新しく作る、設立するというのは、なかなか難しいもので、学内的にも動きはゆっくりしていることもありますが、1つの組織をつぶすというのは1度進み出すと、なかなか止まりません。スピードはますます速くなるばかりです。図書館職員の削減や外注化というのは今後の、学習の場としての図書館を発展させて行くには非常に危険なことではあるのですが、学習支援という図書館職員の専門性があること、その専門性習得に努力していること、成果を少しずつでも出していることをアピールしていかないと、このスピードを押さえ込むことは難しいように感じます。それは私が関係しているFD・ICT教育推進室が削減になったのと同じように・・・削減、解体の危機は目の前にあることを意識した方がいいように思います。
私は学部の頃からESSに入り、ずっと図書館にこもっていた人です。図書館では、ESSのみんなとグループを組んで、テーマに沿って自分の主張を論理付けするためにエビデンスをそろえたり、ロジックをみんなで話あって作ってました。でも当時の図書館では大きな声で話してはいけなかったですし、そういう話はわざわざ外に出てやらないといけませんでした。本当に不便なことで、ずっと「面倒で、何もわかっちゃいない組織だな」って思っていました。しかし、今はラーニングコモンズという、紙の資料、デジタルの資料に基づいて、いろんな学習ができる、まさに学習空間として生まれ変わろうとしています。これは学生だけではなく、教職員にとっても有効な空間だと私は思っています。本学のラーニングコモンズでも、学生以外に教員も使用しているところも見ます。全学的な支援に向けて、教職員の理解と支援、また図書館職員の意識変革と迅速な動き、外部へのアピールが求められています。のろのろ歩かず、迅速な意志決定と行動が必要になりますね。
学習支援が必要ということはずっと前から言われていましたし、共有が必要なんだろうということはなんとなく推測はできますが、今もその議論が行われている、または動き出していても、現場まで認識が広まっていないということは行動面と広報面に迅速さが足りなかったということではないかと思います(これは大学組織全体に言えることだと私は企業の頃から比較して思いますが)。だいたい、組織的な問題のためにできないことも多いのですが、今、教育・研究機関としての大学の姿が問われている中、組織的に情報と意識を共有して、学生も教職員もハッピーになれるラーニングコモンズ、学習空間、そして大学を創っていくこと、その行動が求められているのだと思います。
#具体的な学習支援について、来月発刊されるLISN, No.144に寄稿させて頂きました。
#4ページなので本当に簡単で、案レベルではありますが、図書館職員さんが主な
#ターゲットということでしたので。図書館職員さん方にとってご参考になればと思います。

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