金沢大学ラーニングコモンズを考える


先月、共同学習会「金沢大学ラーニングコモンズにおける学習支援・運用を考える」を行いました。本学中央図書館の岡部課長より、図書館の観点から見たラーニングコモンズに至るまで歴史、インフォメーションコモンズからラーニングコモンズへ変わる背景、ラーニングコモンズについてのご説明が、日本国内と海外の大学の事例を含めてありました。学習支援の関係で私が微力ながら協力させて頂いています。岡部課長も結構、学習支援にご興味をお示しで、ご理解を下さっているので、お話が結構進むので楽しいです。
インフォメーションコモンズでは、プリンターやマルチメディアへのアクセスなどの統合的サービス、OPAC、グループ学習スペースの提供を基本に情報リテラシー教育の一部を担うような形で造られていました。以上のものはグループ学習スペースはまだしも、図書館の利用を通じて、情報リテラシー学習を主に個人で行うことにあったように思います。しかし、図書館が提供できる資源を有効活用することでより良い学習の場を提供することができます。それが「インフォメーションコモンズからラーニングコモンズへ」という言葉に代表されるように、ラーニングコモンズに注目をされているということになるのだと思います。もちろん、その背景には図書館の利用率の低下、図書館に関する予算の低減、図書館職員数の削減という図書館における大きな問題への対応であることもあります。
ただ、私がちょっと驚いたのは、岡部課長からもお話がありましたが、ラーニングコモンズのもう1つの背景として、「知識の伝達」から「知識の創造」へという、学習観の変化についても触れられていることでした。「知識の創造」というところまではちょっと言い過ぎ感があるようにも思いましたが、これは学習科学の方でも学習は一方的に知識が教員などの知識がある人から学習者への「知識の伝達」観から「人間は人間や人工物との相互作用を通じて、知識を再構成する」という社会構成主義的学習観に1990年代を中心に注目されてきました。それに通じるものを図書館でも意識されていた(のか?)というのが驚きだったのです(もちろん、知識の伝達の意味や効果を否定するものではありません。学習というものは受動的なものではなく、好奇心というものをもつ人間の主体的な行動であると捉えることが重要です)。このような考えは教育学部などで教育研究に関わっていない限り、学部などで教育に携わっている教員もあまり知られていないことなのですが。このあたりの概要を知るには、IDE大学協会が出しているIDE-現代の高等教育でラーニングコモンズ特集がされていたので、参考になります。後半にある矢野先生が書かれた学習環境デザインとの関係ではTEALのお話しもあります。
しかし、ラーニングコモンズのような空間は図書館一部局でできるものではありません。ICT利用とも密接に関わってきますので、情報技術について長けている部局との連携は必要になります。本学では情報部が管理しているので、ここはなんとかなるのではないかと、私の勝手な想像ですが、思っております。空間設計も、社会構成主義的学習観の立場に立つ問題解決学習やプロジェクト学習などの学びを支援する可動式で、グループの人数によって組み合わせ方を変えることができる什器類、ゾーニングも大切です。「静かな空間」だけではなく、「仲間が対話を繰り返し、学びを発展させる場」を作ることはなかなか難しいものがあります。本学のラーニングコモンズでもそのような空間が図書館内につくられます。しかし、ラーニングコモンズで「最も」といっても過言ではない程の重要な点は学習支援にあります。海外の大学ではラーニングコモンズ内にキャリアセンターなどの学習支援組織が充実しています。日本の大学でもお茶の水女子大学の学生アシスタントLiSA、東京女子大学の学習コンシェルジェ、名古屋大学でも学習支援スタッフが配置され、学習支援体制が創られているということでした。ここはお金がない地方大学は頭が痛いところです。でもこれが抜けるとラーニングコモンズではないということになります。地方大学では「センター」という文言を気にするような小さな教員もいるので、さらに頭が痛いです。
ただ、本学のように教育工学において、心理学的な側面から協調学習、CSCL研究をしてきている研究者がいるところでは、運用面はプロではない部分もありますが、支援のデザインや体制を組むことは研究の知見を踏まえてできるのは、そういう研究者がいない大学に比べ、大きいことかもしれません。いろいろ考えています。支援に割くことができるリソースの制限の中、この学習空間を活かした学習支援の方法を。社会構成主義的学習観に触れた教育工学の文書や論文は1990年代後半あたりから増えてくるのですが、私は結構、教育工学の古典が役に立つなと思っています。古典はいいことが書いてありますね。
また教員向けのワークショップも必要だと思っています。昨日、東京大学の現代GPシンポジウムに参加してきましたが、東大でもKALSの教育利用普及に教員向けのサマープログラムをされたそうです。これは大切ですね。ただ、FD研修会によくある一方的な講義型はやっても仕方ないと思いますので、いろんな方法を考えたいと思います。その点、東大はうまくやってましたね。参考にしたいです。
ラーニングコモンズは魅力的な空間で、大学における授業内外の学びを支援するのに大変重要な役割を果たすと思いますが、それだけ教職員に負荷が高くなることは確実だと思います。新しい学びの形態ができるということはそれだけの新しい、それも自分たちが考えもつかないような問題や負荷が出てくる可能性は高いと思います。しかし、それを恐れていては何もできないですし、地方大学は大きな特色を出す大切な機会だと思います。
ラーニングコモンズの関係の雑誌を国内外の論文に当たりましたが、しっかりと研究されているものはまだ少ない状況だと思いました。私が読んだところ、The Journal of Academic Librarianshipの何本かの論文くらいだったと記憶しています(でも、海外誌は勉強になった。また日本と大学生のタイプが違うから、そのまま日本でどうかという話にはならないけど)。 まだまだこれからなのだと思います。今後、ラーニングコモンズを導入する大学は増えてくると思いますが、いろんな大学で活かせるような研究知見を出していきたいと思います。
ラーニングコモンズを考える時、ぜひ教育の研究者とも連携をして学習支援を考えてみてはどうでしょうか?