九州大学 山田研究室

中国語を話す力は、技術だけでは伸びない?―オンライン学習における「話す意欲」と情意要因の重要性

2026年11月02日

みなさん、こんにちは。博士後期課程一年生の李です。ここでは、先日の英語文献ゼミで取り上げた、中国語のオンライン口頭練習と学習者の心理的要因に関する論文を紹介します。

タイトル:Beyond technology: the dominance of affective factors in explaining speaking ability among Chinese learners using an online platform

・著者:Bao, W., Wu, J., Zhou, Y., & Zha, R.

・掲載誌:Frontiers in Psychology(2026年、17巻、論文番号1802635)

・DOI:https://doi.org/10.3389/fpsyg.2026.1802635

外国語を学ぶとき、便利な学習アプリや発音を自動判定するシステムがあれば、話す力も自然に伸びるのでしょうか。近年は、自分の発音を録音すると、その場で正確さを判定してくれるオンライン学習ツールが増えています。しかし、同じツールを使っていても、積極的に話す学習者もいれば、間違いを恐れて発話をためらう学習者もいます。

今回紹介する研究は、こうした違いに注目し、中国語学習者の口頭成績には、技術に対する評価と、話す意欲や不安などの「情意要因」のどちらがより強く関連するのかを調べたものです。

1.研究背景

中国語学習への関心が高まる一方で、教師や教育資源の不足、授業内外で十分に話す機会を確保しにくいことなどが課題となっています。オンライン学習プラットフォームは、学習者が繰り返し発話練習を行える手段として期待されています。特に中国語では、声調や発音だけでなく、発話した音声と漢字との対応も重要であり、自動音声認識(ASR)によるフィードバックには中国語学習ならではの役割があります。

これまでの研究では、学習者の不安や動機などの心理的側面と、学習システムの使いやすさや有用性などの技術的側面が、別々に検討されることが少なくありませんでした。本研究は、両者を同じ分析の枠組みに取り入れ、口頭成績との関係を比較した点に特徴があります。

2.研究目的

本研究では、二週間のASR支援型中国語授業に参加した学習者について、①「中国語で話してみよう」という意欲、発話不安、発話動機、自尊感情といった情意要因、②学習プラットフォームを有用で使いやすいと感じる程度が、口頭試験の成績とどのように関連するのかを検討しています。さらに、二つの要因群のうち、口頭成績の個人差をより多く説明できるのはどちらかを明らかにしようとしました。

ここで重要なのは、本研究の目的が「プラットフォームを使ったことで口頭能力が向上した」と証明することではない点です。あくまで、同じような授業を受けた学習者の口頭成績と、それぞれの心理的要因や技術に対する認識の関係を調べています。

3.研究方法

調査の対象は、中国・安徽省の大学で中国語を学び、HSKK(漢語水平口語考試)3級の準備課程に在籍していた初級学習者です。分析対象は113名で、年齢は18~35歳、出身国は34か国に及びました。いずれも少なくとも一学期の中国語学習経験があり、HSKK3級にはまだ合格していない学習者でした。

授業では、「Global Chinese Learning Platform(GCLP)」というオンライン学習プラットフォームを使用しました。二週間のあいだに40分の授業を4回行い、自己紹介、日常生活、キャンパス生活、簡単な対人交流など、HSKK3級に関連する口頭課題に取り組みました。学習者が発話すると、ASR機能が音声と目標となる漢字を照合し、発音の正確さを色分けで表示します。これにより、学習者はどこを再練習すべきかを確認できます。

最終授業の直後には、情意要因とプラットフォームに対する認識を質問紙で調査しました。情意要因として測定したのは、「コミュニケーション意欲(WTC)」、発話不安、発話動機、発話時の自尊感情の四つです。WTCとは、実際に中国語で話し始めようとする意欲や傾向を指します。一方、技術に対する認識については、「学習に役立つと感じるか(知覚された有用性:PU)」と「簡単に操作できると感じるか(知覚された使いやすさ:PEOU)」を測定しました。

質問紙は計68項目の5件法で構成され、既存の尺度を中国語学習の文脈に合わせて使用しています。専門家による内容確認や予備調査を経ており、各尺度の内的一貫性を示すCronbach’s αは.83~.96でした。また、口頭能力はGCLP上のHSKK3級模擬試験を用い、訓練を受けた二名の評価者が採点しました。評価者間の一致度を表すICCは.92で、高い一致が確認されています。

分析では、まず各要因と口頭成績の相関を確認しました。さらに「階層的重回帰分析」という方法を使い、情意要因と技術認識を投入する順番を入れ替え、どちらの要因群が口頭成績の違いをより多く説明するかを比較しました。

4.研究結果

最も目立った結果は、コミュニケーション意欲(WTC)と口頭成績との間に、強い正の相関(r=.746)が見られたことです。これは、中国語で積極的に話そうとする傾向が強い学習者ほど、口頭試験の成績も高い傾向にあったことを意味します。また、発話動機と自尊感情にも中程度の正の相関がありました。一方、発話不安には中程度の負の相関(r=−.429)があり、不安が強い学習者ほど成績が低い傾向が確認されました。

技術に関する要因では、プラットフォームを「学習に役立つ」と感じる程度(PU)と口頭成績の間に弱い正の相関(ρ=.345)が見られました。しかし、「使いやすい」と感じる程度(PEOU)と口頭成績の相関は、統計的に有意ではありませんでした。つまり、操作が簡単だと感じることだけでは、口頭成績の高さを十分に説明できなかったのです。

さらに、階層的重回帰分析では、情意要因の四つを用いるだけで口頭成績の個人差の58.7%を統計的に説明できました。そこに技術認識の二つを加えても、説明率は58.7%から59.2%へとわずかに増えただけで、増加は統計的に有意ではありませんでした。反対に、技術認識の二つだけでは説明率は11.8%でしたが、情意要因を追加すると59.2%となり、大幅な増加が確認されました。

この結果から、本研究の対象者と授業条件では、プラットフォームをどう評価しているかよりも、「話したい」「話すことが怖い」「自信がある」といった学習者の情意要因のほうが、口頭成績の個人差と強く結びついていたといえます。ただし、相関や回帰分析から、その要因が成績を直接高めたという因果関係まで判断することはできません。

5.研究の限界と今後の課題

この研究には、いくつかの限界もあります。第一に、参加者は一大学のHSKK3級準備クラスに在籍する初級学習者であり、他の学習環境や中・上級学習者に同じ結果が当てはまるかは分かりません。第二に、口頭能力は模擬試験によって評価されているため、実際の会話で相手とやり取りする力を十分に測定できたとは限りません。

また、心理的要因や技術に対する認識は自己回答の質問紙で測定されました。二週間という短い期間であり、学習者の気持ちがどのように変化したのかを継続的に追跡した研究ではありません。さらに、全員が授業中に同じ課題を完了しているため、自主練習の回数や実際の利用行動の個人差を分析することもできませんでした。事前の口頭能力を主要な回帰分析で統制していない点にも注意が必要です。

今後は、一学期以上にわたる調査や、異なる習熟度・教育機関での検証が必要です。質問紙だけでなく、実際の練習回数、音声記録、システムの利用履歴、会話課題での発話状況などを組み合わせることで、学習者の気持ちと行動、そして口頭能力の関係をより具体的に捉えられると考えられます。

6.中国語教育への示唆

本研究が示しているのは、新しい学習技術を導入する際、操作の簡単さだけに注目するのでは不十分だということです。学習者が安心して話し始められること、間違いを恐れずに何度も練習できること、話す意欲や自信を保てることも、口頭練習の環境を設計するうえで重要です。

例えば、教師の前では緊張してしまう学習者にとって、一人で録音して繰り返し練習できる環境は、発話への心理的負担を軽減する可能性があります。発音の誤りを明確に示すだけでなく、どの部分をどう直せばよいかを理解できるフィードバックや、改善を実感できる仕組みも有益だと考えられます。ただし、このような支援が実際に不安を減らしたり能力を向上させたりする効果については、別途検証する必要があります。

特に中国語では、声調や音節の正確さを確認する技術的支援と、学習者がためらわずに話すための情意的支援を、切り離さずに考えることが求められます。「高機能なシステムを作ること」と「学習者が実際に話せるようになること」は、必ずしも同じではないのです。

7.この論文を参考にした理由

私がこの論文を参考にした理由は、オンライン学習プラットフォームを活用した中国語スピーキング学習を対象としており、自分自身の研究と共通する点が多いためです。私が現在取り組んでいる研究では、AIによるフィードバックを受けた初級中国語学習者が、その内容をどのように理解し、自分の発話を修正して再び話すのかという学習過程に注目しています。

一方、本論文は、ASRを活用した口頭練習の環境において、学習者の情意要因と技術に対する認識が口頭成績にどのように関連するのかを調べています。研究の中心となる問いは異なりますが、オンラインプラットフォームを授業に組み込み、学習者の口頭能力や学習経験を分析するという大きな枠組みは共通しています。

特に参考になったのは、通常授業に口頭練習を組み込む介入方法、既存の質問紙尺度の利用、口頭試験の採点と評価者間一致度の確認、そして複数の要因の説明力を比較する分析方法です。また、技術に対する評価だけでは学習成果を十分に捉えられないという結果は、AIによるフィードバックを設計・評価する際にも重要な視点を与えてくれました。

 

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