九州大学 山田研究室

教育者はダッシュボードを見て何を考えるのか? 反応パターンから読み解くK–12のデータ活用

2026年10月26日

皆さん、こんにちは!修士2年の樋口尚宏です。
授業データを可視化するダッシュボードは学校現場にも広がっていますが、同じ画面を見ても、先生によって「何に気づき、どう考えるか」は大きく異なります。今回は、中学校の数学教師と、授業づくりを支える「授業コーチ」が、授業データのダッシュボードを前にどう反応するのかを丁寧にコード化し、役割による違いを明らかにした論文をご紹介します。私自身、教師の方々とダッシュボードを見ながら振り返りを行う研究をしており、分析の視点を大きく広げてくれた一本です。

論文情報
・タイトル: Making Sense of Sensemaking: Understanding How K–12 Teachers and Coaches React to Visual Analytics(センスメイキングを読み解く:K–12の教師とコーチは可視化されたデータにどう反応するか)
・著者: Fabio C. Campos, June Ahn, Daniela K. DiGiacomo, Hoang Nguyen, & Marisa Hays
・掲載誌: Journal of Learning Analytics, 8(3), 60–80. ・出版年: 2021年
・DOI: https://doi.org/10.18608/jla.2021.7113

1. 導入・背景:「センスメイキング」という一言で括られてきた複数のステップ
米国のK–12(幼稚園から高校まで)の学校では、授業データを指導に活かす力が教育者の必須の力量となり、データを表示するダッシュボードも普及しつつあります。しかし、立場の異なる教育者がそのデータからどのように解釈を組み立てるのかは、まだ十分に分かっていません。

著者らは既存の研究に2つの課題があると指摘します。 ひとつは、モデルの粒度の不足です。LA(Learning Analytics:学習や指導のデータを分析し、教育の改善に役立てる研究分野)やHCI(Human–Computer Interaction:人とコンピュータの関わりを扱う分野)では、可視化ツールが指導や学習にどう影響するかを概念モデルで説明してきました。ところがこれらは、省察、気づき、洞察の生成、解釈といった異なる活動をひとまとめにして「センスメイキング(データに意味を与える過程)」と呼び、各々の詳細なステップを捉えていません。もうひとつは、役割による違いの見落としです。すべての教育者が同じようにデータを読むと仮定した利用者を区別しないツールは、指導の改善を十分に後押しできないと著者らは考えます。

そこで本研究は、教師と授業コーチ(教科に特化した指導支援を行うよう訓練を受けた経験豊富な教育者)がダッシュボード上の授業データをどう意味づけるかを詳細に記述します。論文中にはこの課題意識を整理した既存LAプロセスモデルの図(Fig.2: p.64)があり、どこに研究の焦点を置くのかを理解するうえで参照すると分かりやすいです。

2. 理論的枠組み:センスメイキングを「意味を書き起こす過程」と捉える
本研究はLA・HCIの外から2つの知見を取り入れています。ひとつは組織論のセンスメイキング研究(Weick, 1995)で、センスメイキングは、隠れた意味の「発見」ではなく、その人の参照枠や感情に左右されながら現実を書き起こす過程であり、解釈はその産物だと考えます。もうひとつは、K–12での対話的なセンスメイキングを扱う教育研究(Horn et al., 2015)です。教師がコーチに助けられてデータを読み解くという関係は、K–12に特有のものです。 この立場から、本研究は感情を含めた教育者の反応を観察対象とし、行動は別の(ただし関連する)過程として分析範囲から外しました。行動は学校の方針やチームの力学にも左右されるためです。従来の教育研究にはデータへの反応を「概念的」「象徴的」「道具的」と分ける分類もありましたが、教師とコーチの違いを議論する共通言語としては粗すぎると著者らは考えています。

設定されたリサーチクエスチョン(RQ)は「K–12の教育者は、可視化されたデータに対してどのようなタイプとパターンの反応を示すか?」です。

3. 調査手法:シンキングアラウドで集めた反応をコードブックに仕上げる
本研究は、大学と学区の研究実践パートナーシップ(Research-Practice Partnership: RPP)4つから成るネットワークPMR2(Practical Measures, Routines and Representations)行われました。教師に提示されたのは、授業での議論を生徒がどう経験したかを尋ねる約8問の質問紙の結果で、研究チームが教育者と共同設計したダッシュボード「Edsight」上に、生徒個人が特定されない形で表示されます。 参加者は、ネットワーク内の教育者74名から選んだ中学校の数学教師9名と授業コーチ9名です。

ここでの教師は、自分の数学の授業で生徒と直接関わり指導を行う立場です。一方、授業コーチ(instructional coach)は、教職経験の豊富な教育者のなかから学区が登用し、校内で継続的に、教科に特化した指導支援を教師に提供するよう訓練された立場です。米国のK–12では、教師がデータを読み解き、指導の改善につなげるのを支える役割として広く採用されています。平均経験年数は教師10年、コーチ17年で、可視化ツールの使用経験は教師にはなく、コーチも1名のみでした。約1時間のセッションで、考えを声に出しながらデータを読み解く思考発話法(think-aloud)と半構造化インタビューを行い、1人あたり約15の可視化を見てもらいました。12名は自分の授業のデータ、6名は匿名化した例示データを見る形です。認知過程をそのまま引き出すため、「何に気づきますか?」「このデータから何が分かりますか?」とだけ促しています。

分析では、書き起こしを「1つの解釈行為」ごとの抜粋に分け、帰納的なオープンコーディングで反応を整理し、感情・分析・意図の3次元から成るコードブックに仕上げました。最終的なコーディングは2名以上で行い、一致度(Cohenのκ)は0.82でした。役割間の比較には、出現数の中央値の差を検定するWilcoxon順位和検定を用いています。

4. 結果・議論:25の反応タイプと、教師とコーチの読み方の違い
本研究のRQは1つなので、論文の枠組みに沿って、反応の類型、役割による違い、共起パターンの順に整理します。

反応の類型:感情・分析・意図の3次元
コーディングの結果、「反応なし」を含む25の反応タイプが整理されました。
・感情の次元には、驚き、満足、共感、不信、責任など、分析の次元には問いを立てる、想起、原因帰属、穴埋め、点と点をつなぐ、比較、予測などが含まれます。
・意図の次元は、改善の意思はあるが計画を伴わない「行動意図」、具体的な行動を挙げる「計画」、行動のためにダッシュボード外の情報を求める「情報探索」です。
・分析次元の用語は少し分かりにくいので補足すると、「原因帰属」は結果の原因をデータの外にある何かに求めること、「穴埋め」は自分の意見や信念、教育観でデータの隙間を補うことを指します。

役割による違い:教師は「語り」、コーチは「行動」へ
Wilcoxon検定で有意差が示された反応は次のとおりです(数値は出現数)。

・教師に多い反応:不信(9対1)、責任(7対0)、想起(21対4)、原因帰属(47対21)
・コーチに多い反応:点と点をつなぐ(21対7)、行動意図(25対11)、情報探索(19対2)、意図次元の合計(50対13)

教師は状況を自分の言葉で描写して原因を帰属する傾向があり、コーチはデータから情報を探し、教育的行動の観点から考える傾向がありました。たとえばコーチは、学区の社会情動的学習の方針を持ち出し、データにも質問項目にもない「クラスの文化」という説明の枠組みを自ら提示しました。一方、教師は過去の授業で見た生徒の様子から、「自信がなく自力で進みたがらない」という具体的な説明を組み立てました。なお、問いを立てる回数はコーチが教師の2倍以上でしたが、これは統計的に有意ではありません。

共起パターン:どの反応がセットで起こるか
1つの抜粋内で2つのコードが同時に付いた回数も分析されています(Fig.4: p.71)。まず目立つのは、原因帰属と「意図なし」の組み合わせが62回に上ることで、データを見ても行動に結びつかないのが最も一般的な反応であることを裏づけています。そのうえで、分析と意図を結ぶ次のようなパターンが取り上げられました。

・問いを立てる × 情報探索(17回):大半がコーチ。データへの問いが、授業観察や聞き取りなど、ダッシュボード外での情報収集の計画につながる
・穴埋め × 行動意図(13回):価値観や外部情報で説明を補う人ほど、改善の意図を口にしやすい
・原因帰属 × 想起(14回):主に教師。過去の出来事を思い出して原因を帰属する

議論:拡張されたLAプロセスモデルと「過剰適合」
著者らは、役割差を「教師は出来事の当事者として人や授業に関する経験的知識(シーン)で読み、コーチは教授上の課題などの命題的な知識で読む」と解釈します。そして、センスメイキングの全体を、その産物である解釈から区別して描く拡張LAプロセスモデルを提案しました(Fig.5: p.75)。行動に至らなくても、この過程から教育的な知識と省察が生まれる、という点が重要です。 さらに著者らは、新しい情報を既存の枠組みに押し込め、表層的な解釈を繰り返してしまうリスクを、機械学習の用語になぞらえて「過剰適合(over-fitting)」と呼びました。教師に多かった原因帰属・想起と「意図なし」の共起がその根拠です。可視化の設計次第でこのリスクが変わりうるため、LA研究にとって特に重要な課題だとしています。

5. 結論と研究の限界
本研究の貢献:①教育者・研究者・設計者が共有できる共通言語としての反応の類型、②教師は想起と原因帰属、コーチは情報探索というように、役割で反応が異なることの解明、③拡張されたプロセスモデル、の3点です。コーチがセンスメイキングを促す研修や、過剰適合を抑える可視化の設計に活かせると著者らは述べています。

研究の限界: 参加者が少なく、一般化可能な因果的な主張は意図されていません。また、提示された刺激は生徒から見た教師の指導に関する質問紙のみで、教職経験や学区ごとの文脈も揃えられていません。さらに、教育者同士が対話のなかで意味をつくる協働的なセンスメイキングは捉えられておらず、類型はあくまで第一歩とされています。

6. この論文を選んだ理由と私の研究への活かし方
私自身も高校の先生方にダッシュボードを見てもらい、振り返りをしてもらう研究をしていますが、ダッシュボードを見た教師の反応をここまで細かくコーディングした研究は、これまで見たことがなかったためぜひ参考にしたいと思い選びました。

私の研究では、先生方とダッシュボードを見ながら話す振り返りのセッションを繰り返し行い、録画・録音をしています。本研究で提起されたコードブック自体の要素の吟味や「1つの解釈行為」という分析単位の切り方についても慎重な検討は必要そうだと感じましたが、今回のコードブックをもとに分析をすることで、この研究領域への貢献にもつながると感じました。さらに、私の研究では同じ教員の振り返りを複数回追跡し、システムの操作ログも取っているため、センスメイキングの時間的な変化、より細かい行動の分析、洞察や振り返りの際に教師が書いたテキストに着目した分析など、発展の可能性があります。また、本研究では教師の可視化されたデータに対する意味づけの部分に焦点が当てられていますが、私は自分の授業を分析する問いを立てるところから振り返りまでを記録しているため、観察の幅を広げた分析にも挑戦してみたいです。

文責:樋口尚宏

 

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