高校のSTEM授業におけるラーニングアナリティクス研究論文が採録になりました


いやー、長かった・・・うちの博士学生がやってくれました。共同研究を行っている東明館高校におけるLearning analytics in practice論文、採録になりました。査読者の先生方、担当の先生、東明館高校の先生方・関係者様、また研究チームのみなさんに感謝致します。ありがとうございました。

Chen,L., Yoshimatsu, N., Goda, Y., Okubo, F., Taniguchi, Y., Oi, M., Konomi, S., Shimada, A., Ogata, H., Yamada, M. (in printing), Direction of collaborative problem solving based STEM learning by learning analytics approach, Research and Practice in Technology Enhanced Learning, Springer

内容は、高校における協調的問題解決意識やSTEM学習方略利用意識を高めるSTEM型授業デザインをラーニングアナリティクスのアプローチから検討するというものです。システムとしてはMoodle、BookRollを活用し、それらに蓄積されたログとSTEMにおける学習方略意識、協調的問題解決意識との関係性分析、ならびにグループディスカッションと協調的問題解決意識との関係について分析した結果について示しています。

議論を中心としたアクティブラーニングで、さらに近年、注目されているSTEM教育においてラーニングアナリティクスのアプローチから授業デザインを検討するという、まさに挑戦的な研究でありますが、ラーニングアナリティクス研究をこれまで精一杯やってきたLEDSチームの大きな力があってこそだと思います。

結果としてはマーカーの利用ログと成績、協調的問題解決意識については正の相関が見られたのですが、STEM学習方略利用意識や事前学習のログと協調的問題解決意識との間には負の相関が見られるといった結果が示されました。1クラスの生徒さんが少ないという、少人数クラスで授業をされていることもあって、言えることは限定的な部分もあるのですが、高校という、国際的にもラーニングアナリティクスがしっかりと定着していないフィールド(特に日本では初等中等教育においてはまだまだ・・・)で、STEM型授業のデザインをラーニングアナリティクスのアプローチで検討するという、Learning analytics in practiceについて一歩を踏み出せたのは非常に大きいと思っています。しかも国際誌で。

このデータを取り始めたときは、まだ緒方先生@京都大学が九州大学から転出されて間もないころで、大学でやってきたラーニングアナリティクスの研究知見を初等中等教育へ展開しようとしていました。MoodleやBookRollの利用が進まず、もがき苦しんでいた頃でした。その中でも東明館高校では理解して下さる先生方が少なからずいて、その教育への熱意とこちらへのご協力に強く感銘を受けたことを覚えています。その頃のことを思うと、この1本は苦労が報われた大きなものになります。

うちの学生にとっては記念すべき1本目が国際誌で、ICCEを運営しているAPSCEによって管理され、国際的な出版社の1つであるSpringerのジャーナルに採択されたというのは非常に意義があることで、これからの研究につながります。現在もLEDSでは大学を中心にラーニングアナリティクス研究を進めていますが、そこで蓄積された成果をさまざまなフィールドに展開しています。高校においては授業デザインへの展開はニーズとして強いものがあります。教育現場へフィードバックし、先生たちの経験と掛け合わせたLearning analytics in practice研究をますます進めていきたいと思います。

学習データ活用が広がる中で考えるべきこととは何か?:Edvation x Summit 2019に登壇してきました


先日、Edvation x Summit 2019にて、セッション「学習データの活用により、教育現場はどう変わるのか?」にてモデレーター登壇をしてきました。パネラーとして稲田さん@atama plus、神野さん@COMPASS、加藤さん@Classiをお迎えし、学習データを活用したシステムの導入による効果と課題について語って頂きました。

Edvation x Summit 2019

Edvation x Summit 2019

https://www.edvationxsummit.jp/

Atama plus

https://www.atama.plus/

COMPASS

https://qubena.com/

Classi

https://classi.jp/

ICTを活用した学習分析のことをラーニングアナリティクスと言いますが、パネルディスカッションの前にラーニングアナリティクスとは何か、九州大学で立ち上がったラーニングアナリティクスセンター(設立者:緒方 広明 教授(現:京都大学))と学習教育データ科学研究ユニット(リーダー:島田 敬士 教授)の紹介と実際に行っている研究、いろいろあるのですが、島田先生のリアルタイム分析、私が代表で開発しました、デジタル教科書/教材配信システム”BookRoll”と連動した知識マップ作成システムと、島田先生が総括されている知識マップ分析システム、テキストチャットにおける発言自動分類システムについて紹介をさせて頂きました。

パネラーのみなさんが対象としているフィールドや扱われているシステムの特性は異なりつつも、目指している人材育成像とそのアプローチはまさにEdTechで、単に知識をインプットすることを最大限に効率化することを目指しているのではなく、それを踏まえてどういう学習環境、教育像を目指しているのか、明確なビジョンを持たれていることに感銘を受けました。効果としても、成績向上に寄与するのはデータとして示しても、現場に受け入れられるまでのご苦労、それに対する対応など、ご苦労された点、対応されたことも共通しているなと思いました。これ私が行っている研究でも同様でした。

学習支援システムに蓄積された記録、それが学習データですが、それを活用することで、さまざまな学習環境の構築が可能となります。まさに今回のパネラーのみなさんはビジネスを通じて、その世界を社会に見せているパイオニアといえます。

「知識を活用し、そしてどうするの?」

そこに根ざしたビジョン。私の中ではEdTechというのは単に教育・学習に情報通信技術を使ったものではなく、革新的な人材育成方法も含むものだと思っていますが、それに合致するものだと思います。学校や塾、家庭などでも、情報通信技術に対して抵抗を示す方はいます。自分が受けてきた教育や学習環境は正しいという信念というものは強く影響するのですが、もはや、自分が普通だと思っている教育観・学習観というものは通じなくなってきているというのはあると思います。私の授業でも、単に教育工学の研究を伝え、研究方法を学ぶだけではなく、自分の周りにある教育・学習リソースはダイナミックに日々変化すること、それらのリソースを活用した学習環境を自分自身で構築することが求められること、自分の問題だけではなく、これからの世代にも影響するということ(そういう教育を受けていた子どもたちを一緒に働くことになるし、自分たちの子どもたちも、新しい時代の教育を受け、自分の教育観・学習観は通じなくなる可能性もある)を伝えています。さまざまなアプローチが増えてきていて、その選択肢をどう考えるのか、ここを研究者だけではなく、学校等の公教育、教育サービス提供企業は考えていく必要があろうかと思います。

その中でも学習データの活用や連携は学校、塾だけに限らず、図書館、博物館や美術館、水族館、また地域で開催されるワークショップそれぞれが独立していた学びの場をシームレスにつなぎ、相互に知識習得だけではなく、学びの意識、キャリア、人生観などさまざまな観点で、学びを意味を深くすることが可能となります。これはまさにEdTechによるイノベーションだと思うのです。

このようなイノベーションを本格化するには、近年は教員のデータ活用リテラシー育成に注目されてますが、教員の問題ではなく、家庭や学習者本人を含む、教育に関わるさまざまなステークホルダーたちのデータ活用リテラシー育成が求められるのです。しかし、そのためにも来たる教育・学習イノベーションに向けた教育観、学習観の変容は求められるでしょう。TAMなど使って、いろいろ意識の検証しても面白いかもです。

そんなことを考えたEdvation x Summit 2019でした。元気なみなさんが参加されていて、教育工学の未来も明るいように感じました。今後、Edvation x Summitが情報通信技術を活用した、世を変えていく人材育成コミュニティのプラットフォームとしてますます発展していくことを願っております。パネラーの稲田さん、神野さん、加藤さん、ありがとうございました。みなさまのこれからのラーニングアナリティクスによるプロダクトが大きくなっていくこと、社会に広がり、ますますのインパクトを持っていくことを楽しみにしております。私も研究者として、貢献していきたいと思います。

最後にEdvation x Summitを運営された佐藤先生@デジタルハリウッド大学大学院にこのような機会を下さったことに感謝致します。ありがとうございました。