査読・編集担当で気をつけたいこと:JSET第34回全国大会チュートリアルセッション2を終えて


9月28日から30日まで日本教育工学会(JSET)第34回全国大会@東北大学が開催されました。朝から飛行機が遅れたり、急いで理事会に行き、チュートリアルセッション2のコーディネートと説明、SIG04「教育の情報化」セッションに参加、シンポジウムのコーディネーター・司会者、そしてSIG-03の運営参加と・・・こんだけ全日フルに参加するのは久しぶりでバタバタしてましたが、楽しかったです。

さて、今回、初めてJSETでは(主に)査読者向けのチュートリアルセッションを行いました。チュートリアルセッションは初めてJSET全国大会に参加した方を対象にしたものと論文編集委員会が受け持つものの2つがあります。私は後者の方のコーディネーターを担当しました。昨年までは論文書き方チュートリアルセッションをしていたのですが、今回は査読方針、査読時に気を受けてもらいたいなどを、現在査読を受け持って下さっている方々や潜在的になる先生方を主な対象として行いました(ですが、論文の書き方セッションでもあるといえばあるんですが)。加藤先生、山内先生といろいろネタを考えたのですが、いつもの論文の書き方ではなく、ちょっと違うものを・・・ということで。

編集委員長の加藤先生@放送大学より、論文の採否状況、傾向などのお話があり、副編集長の山内先生@東京大学より査読時に気をつけて頂きたいこと(査読条件における表現、修正の可能性がある場合はチャンスをつくる方向であること、倫理面の問題については厳しく対応して欲しいことなど)についてお話下さいました。最後に僭越ながら、私より、査読者に読んでもらえる条件対応(2nd round向け)について話しました。ご質問もいろいろありまして、編集委員としてもいろいろ考えなければならないこともありました。思った以上に盛況で、私が数えたところ、113名のご参加があり、立ち見の方々もいました(森下先生@信州大学のカウントでは131名とのことでした)。ご参加くださいましてありがとうございました。

そして本題ですが・・・———
これまで私は特集号の幹事団を合計4回しました。3回目は昨年のラーニングアナリティクス、4回目は2018年現在進行中のアクティブラーニングです。論文の査読は何本やったでしょうか。覚えていません。それだけやっているが故に編集委員をさせて頂いたり、特集号の幹事団としてもお声かけされるということだと思います。大変ありがたいことだと思っています(特集号はそろそろ卒業ですかね)。その経験の中でも、査読のお願いする立場でもあり査読をする立場でもある私は、ここ最近、「査読する」ということをいろいろ考えます。

教育工学は学際的な分野です。それぞれの研究者によって強みが違います。その強みをできるだけ踏まえた上で、査読をお願いしています(し、私自身も査読をします)が、基本的な考え方として「投稿された論文を良くして、広く読者の目に触れるようにしよう」という意識を共有することが重要だと思っています。やはり教育工学における研究知見の蓄積は研究領域と人材育成、その先にある社会の発展につながるので、その意識はとても重要だと思っています。とはいえ、投稿された論文のクオリティ、JSETの場合は査読回数の上限もあるので、査読を通じて、研究を良くしていくにも思うように進まないというのはよくありますし、査読者・編集担当者としても悩ましいところです(お悩みの査読者も多いように感じます)。それでも教育的に、どうすれば論文として(投稿種別変更も含めて)よくなるのか、上限に達して、残念ながら返戻という判断をしたとしても、再投稿して、掲載を目指すなら、「〜をしてください」など、研究デザインの在り方などフィードバックしたいものです。

またちょっと感じていることは、査読は査読者と著者間のPaper-Mediated Communicationだと思うのですが、ミスコミュニケーションもあるなあと。相互に誤解を生じている点もやはり見受けられます。このミスコミュニケーションを減らしていくことも重要かと思っています。査読者側としては、誤解されないように、明確に著者に対して修正指示を出すこと(「〜して下さい」と)が重要ですし、著者もそのメッセージを受け取って、誤解される表現は避け、査読者に明快に意図を理解してもらうためにも最大限に対応はすべきです(私は、師匠であります赤堀先生からは「誠意を示すことが大事だ。誠意は伝わるんだ」と教えられましたし、実際にそうだと思います)。

良い研究をすることと良い論文を書くことは必ずしも同義ではありません。論文執筆は研究デザイン・遂行能力とは別のテクニカルなものが求められます。研究デザイン・遂行能力、論文執筆、査読というのは密に関連しています。今後も編集委員である限りは研究者の育成に貢献できればと思っています。チュートリアルセッション2のフロアーからのご質問でも「査読者教育というのは学会としてやらないのか」という問いを頂きましたし、セッションの後に、加藤先生、山内先生とも、「今後もぜひこの企画は続けていった方がいいですね(30分じゃ短いので、1時間くらいいりますね」と話をしていました。

今後もできれば幸いです。

教育工学ができることを考える〜シンポジウム「EdTech:これからの教育を創る教育工学」を終えて


日本教育工学会第34回全国大会シンポジウム「EdTech:未来の教育を創る教育工学」が無事に終わりました。フロアーからの質問を十分に受け取ることができなかったのですが、引き続き、教育工学として考えていくべきテーマだと思いますので、議論の場になればと思い、本シンポジウム企画者・コーディネーターとして、考えたことをまとめたいと思います。

EdTechはEducationとTechnologyを掛け合わせることで、イノベーティブな教育・学習環境の創出、教科教育のみならず、その知識を踏まえた知識創出・行動力を身につけさせるものとして注目されています。この先、何十年先の日本社会を支える中で教育はまさに根本であり、文部科学省だけではなく、経済産業省や総務省も、それぞれの観点はあるものの、教育について変えていくという強い意思の現れと思います。まさに教育工学会として考えていくべきテーマだと思い、私の指導教員でありました赤堀先生@ICT CONNECT 21、山内先生@東京大学、合田先生@熊本大学、美馬先生@公立はこだて未来大学のご協力を得て、基調講演者として、浅野大介さん@経済産業省、パネラー講演者として佐藤昌宏先生@デジタルハリウッド大学大学院、斎藤俊則先生@星槎大学、島田敬士先生@九州大学にお願いすることができ、指定討論者として山内先生にお願いしました。

—シンポジウム概要—
浅野さんからはご自身の経験から、経済産業省におけるお仕事、それを通じた学び、学教教育から入省後における学びの楽しさの変容についてお話があり、これまでの前提やルールの再構築(そのプロセスにおける葛藤も学び)から、実際に社会の問題を解決し、広く展開していく、まさに生の社会解決プロジェクト(My Project)を通じた学びの重要性、それらをサポートできる教育・学習環境デザイン・開発・社会実装の推進ができる事業を進めていくお話がありました。
#懇親会でも浅野さんとお話し、これからの人材育成に対して、強いメッセージを受けました。

パネラー講演では佐藤先生から、EdTechの定義、考え方についてお話がありました。Educationにおいて、Technologyが使われることがこれまでもありましたが、EdTechでは、Education × Technologyによるイノベーションが見えることに重きが置かれること、それはTechnologyの進化は止まらず、薬にも毒にもなるが、それを教育においてうまく薬にしていく仕組みを作り上げていくことが重要であることをお話下さいました。進化は止まりませんが、技術的な新旧ではなく、自らの回りの問題の本質を捉え、Technologyによって状況を変えていけることがポイントであることです。佐藤先生が代表理事を務められています教育イノベーション協議会が主催のEdvation x Summit 2018でもこの点はよく見えるかと思います。

斎藤先生からはUNESCO、IFIPにおいて行われているDigital Agencyという概念についてお話下さいました。EdTechが推進されていくことで生まれるイノベーションはもちろん学習者のためであり、教育に広く関わる人たちのためでもあるわけですが、享受者に対して、より具体的に、何を目的とし、何ができることとなるのか、それはEdTechによるイノベーションによるものなのかなど、具体的な観点を与えてくれるものであるというお話がありました。
IFIP(International Federation For Information Processing): https://en.unesco.org/partnerships/non-governmental-organizations/international-federation-information-processing

島田先生からは具体的な研究事例として、島田先生の研究分野であるイメージ処理・パターン認識を教育・学習に適用したラーニングアナリティクス研究の紹介をして下さいました。九州大学内で動いている授業進行状況をリアルタイムでログ解析し、教員へフィードバックするリアルタイム分析(実時間分析)、小テストの回答状況を踏まえて、個別最適化した復習教材の自動生成システムのご紹介などありました。

パネルディスカッションでは、山内先生より、山内先生がこれまで取り組まれてきた産学官連携のEdTech研究の事例をご紹介下さった上で、ICTを活用した教育・学習研究を進めてきた経緯をご説明下さいました。その上で、EdTechという言葉を使う(使わない)意味、現場を巻き込む戦略をどうするのか、教育工学会への期待はどうかといったご質問がなされ、パネルディスカッションが行われました。
BEAT: https://fukutake.iii.u-tokyo.ac.jp/archives/beat/
FLIT: http://flit.iii.u-tokyo.ac.jp/index.html
#MEETのアーカイブページがない・・・

パネルの流れにつきましてはTwitterのハッシュタグ、#jset34にシンポジウムの内容をご参照ください。重田先生@北海道大学、村上先生@京都外国語大学の両先生が整理されています。

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これまでのEdTechの記事や本シンポジウムの話を聞いて、私が感じたことは、教育・学習のとらえ方の広さ・狭さ(それは教育工学研究者が対象としているフィールドにも強く依存していると思います。特にフォーマル学習・インフォーマル学習など)や主として関わっている方々の背景の違いがあるものの、目指している方向は同じですし、それぞれ強みが違うのだろうと思っています。

EdTechはイノベーティブな教育・学習環境を広く社会実装がなされるものと思います。浅野さんや佐藤先生の言葉を使うと「学校だけ、または中心ではなく、地域での学習イベント、塾、図書館など様々なところで発生するMy Projectという学習資源に満ちた場・文脈をシームレスにつなぎ、社会としてLife long learners(もちろん子どもたちも含む)を支援する」ということだと思います。その実現のためには、問題の切り口の選定、実装スピード、強い意志を持ちながらも緩いコミュニティが必要かと思います。この前者2つはEdTechが強いところだと思います。
#経産省のEdTech事業。採択事業の様子が逐次、生の動きが見られるのはとてもいいです!!
https://www.learning-innovation.go.jp/

教育工学研究のアプローチは伝統的に「教育・学習環境で実際に起こっている諸問題に対する解決策を理論に基づいてデザイン・開発・評価し、解決をすること」です。現実の問題、ルール、状況に応じたProblem-Solution思考であることが主であろうと思います。
参照:教育工学の研究をしたい方へ
http://mark-lab.net/?page_id=854

しかし、教育工学研究が社会実装を考えていないかというとそんなことはありません。教育工学が「工学」と言われる所以は、さまざまな文脈で活用できる教育・学習に関するモデルを構築することにあります。たとえば教育工学研究における1つの大きな分野である教師教育研究は、授業デザインや進行は専門家の暗黙知が集約された職人芸という見方がありましたが、職人芸を職人芸でそのままにするのではなく、職人芸を広く展開していけるモデルを構築し、教師を適応的熟達者に育成していくことを1つのゴールにもしています。さまざまな教育・学習に関わる場におけるソリューションモデルを構築していく様々なノウハウを教育工学研究は持っています。インストラクショナルデザインはその最たるものだと思いますが、他にもModified Grounded Theory Approach(M-GTA)を用いて、質的データから仮説モデルを構築し、研究対象となっているフィールドにおける状況をモデル化する研究もされています。またデザイン・開発したソリューションがどのように現場に適用して、改善されていくのか、パフォーマンスをあげていくのか、デザイン研究(Design-based research)を適用して研究をしている研究チームもあります。その過程では、構築したモデル、ソリューションの効果を評価する必要もあります。技術的な面でも、近年ではラーニングアナリティクス研究が国内外で広がりを見せていますが、ラーニングアナリティクスに関する技術的要素もEdTechが推進されるフィールドに、まさにフィットするものと言えるでしょう。

以上のような点はEdTechが目指す教育・学習における大きな動き・変革のためには必要な要素のように思います。今回のシンポジウムにおいて、EdTechが目指していることと教育工学研究の接点の多くを見出すことができました。目指すべき教育・学習の考え方は省庁によっても違いがあるでしょうし、教育工学会における研究者でも研究分野によっても違いがあると思います。ただ、対立軸のように捉えるのではなく、目指すべき教育・学習環境の構築、その先にある人材像、国、世界を考え、My Projectが広がっていけばいいなと思います。

私自身も微力ながら、経済産業省EdTech事業の一部に関わっております。その関わりを通じて、教育工学が貢献できることを発揮できればと思います。

#事前打ち合わせや懇親会の時に、浅野さんと佐藤先生とも少し話した
#のですが、こういう話を中高生や大学生と議論していくことが大事だと
#思います。2018年度前期の私の授業ではEdTechをテーマに議論した
#のですが、とてもいい議論になりました。EdTechについて大人だけで
#ではなく、子どもたちも考えていく機会を増やすことも重要ですね。

教育工学研究で出てきた用語や動向が説明されている文献について
EdTech

インストラクショナルデザイン
下記文献はわかりやすいと思います。

Modified Grounded Theory Approach(M-GTA)
M-GTA研究会
https://m-gta.jp/index.html

デザイン研究(Design-based research)
静岡大学RECLS:学習科学とは(軽くデザイン研究について説明されています)
下記文献も良いと思います

ラーニングアナリティクス
緒方広明「大学教育におけるラーニング・アナリティクスの導入と研究」, 日本教育工学会論文誌 41(3), 221-231
https://ci.nii.ac.jp/naid/130006337697
山田政寛「ラーニング・アナリティクス研究の現状と今後の方向性」, 日本教育工学会論文誌 41(3), 189-197
https://ci.nii.ac.jp/naid/130006337694