今日は東京農工大で行われたティーチングポートフォリオのセミナーに参加しました。
最近、教員の評価、とりわけ、教育への貢献に対する評価をどうするのか、よく目にします。大学教員というのは、今まで研究業績で評価されてきているので、授業など研究以外のところでの貢献についても正当に評価しようというような動きが出てきています。
本日は東京農工大学で開催されたティーチンポートフォリオセミナーに参加し、大学評価・学位授与機構の栗田佳代子先生のご講演を聞いてきました。
今まで、教育評価を行うとしても、学生からのアンケート、シラバスなどの内容で全体的な目で大学教員の評価というものがなされていなかったということです。このがティーチングポートフォリオというものは、研究、教育とその他の活動と全体的に、且つ教員が主観的に観点を決め、その観点に沿う客観的資料を基にして自らの実績について記述するものというものということでした。
これはFDの一貫として行うという話で進めてれてきているので、大学教員と大学組織、双方へのメリットが説明されていました。教員にとっては自らの実践について振り返りができることや、評価者へのアピール、自分の実践についての効力感を感じることができるなどのメリットがあり、組織としては教員がどういうことをしているのか把握することができ、外部へアピールすることができる、大学の質的向上を見込むことができるなどがあるということでした。評価としては、教員のアラを探すのではなく、激励するという視点で使用されるべきとのお話がありました。
実際にティーチングポートフォリオを書くワークショップ(というのかな?ミニ演習をワークショップというのであれば、ワークショップなのだろう)もあり、大変有意気でした。
こういったものの普及としては、大学の文化が大きく左右されると思いますが、執行部からの理解、強制で行うものではなく草の根的に地道に時間をかけて行うのがよいなどのお話がありました。
最後の議論になるのは、やはり組織の話、普及の話が多かったです。これはFD系のセミナーに出るとこうなることは宿命なのでしょうか。導入の素地が日本では整っていない、学長などの執行部からのトップダウンでする方がいいのではないか、などの議論がありました。たしかに大学というのは学長が変わるとガラリと変わるので、草の根的に進めてきたことも一気につぶれることも容易に想定できるなと思いました。
私が考えたことは、大学教員のキャリアってなんだろう?ということです。大学に限ったことではないのですが。企業ではポートフォリオという言葉は使いませんが、自らの業績について上司に説明し、評価を受けることは当然のことです。私も企業にいたころにやっていたので、私にとっては今日のお話は目新しい話でもなかったです。しかし、こういう新しいことを大学という組織にどのように適用するのか、というところには大変な興味があります(残念ながら、この点に関する事例などはよくわかりませんでしたが)。
このような評価に関わることが大学という組織に当てはまりにくいのは、研究業績を上がることが優先される傾向にある大学組織では教育に関する業績が評価されないことに大きな問題があるのでしょうか。組織全体において普及するという点では東京農工大学の先生が最後におっしゃっていたのですが、草の根的に行うのと、執行部からのトップダウンの双方で行うのが良いというお話がありました。私はその通りだとは思うのですが、1つ、大切な観点があると思います。それは執行部が大学教員という人的資源の育成という視点を持つ必要があるのではないかと思います。
しかし、そのためにはこのようなティーチングポートフォリオの使用がどういう効果につながるのか、目に見える形で示す必要があるのではないかと思います。情意面の効果は確かにあると思いますが、執行部に「情意面に効果がありました。動機付けによかったです」と言っても、「う~ん・・・」とあまりいい顔はしてくれないように思います。とはいえど、客観的指標で量的な評価を行うのも大変難しいところではあると思うのですが、量的に出せないと言って、出そうとしないという姿勢はおかしいことだと思います。こういう組織にとって新しい試みは失敗はあっても、何かしらのチャレンジは必要なものなので、量的なデータを収集するための追跡調査などの試みはあってもいいのではないかと思います。
しかし、この手のものを大学組織で普及させるという話をする場合、大学の授業の質的改善とか、学生の満足度向上、社会から求められる人材の育成を目標とするといった話で語られることが多かったように思います。企業では営利を上げるためという最大の目標があり、さまざまなサブの目標が立てられますが、ある程度の規模の会社になると、人材=人財という考え方を示しています。今回ご講演くださいました学位授与機構の栗田先生は実際にご講演中に「大学教員は人的資源です」というお言葉を遠慮がちに使用されたのですが、「いや、明らかに人財でしょ」と私は思います。
大学は企業とは違うということをおっしゃる方も多いと思いますし、違う点は多いことも事実ですが、私たち大学教員は大学組織においては研究と教育を実際に行う人的資源ですし、その資源の質を上げることが大学の質的向上に結びつくということなのではないでしょうか。私は大学教員のキャリアは教育に限らず、さまざまなものがあってもいいと思っています。何か技能的なものも大学教員としてのキャリアに結びつけるという、企業的な考え方も入れると何か意識が変わるかもしれません。新たなスキルが身につくことによって、研究の幅が広がるなど、大学教員にとってもメリットはあるように思います。「そんな時間があるか?」という人もいますが、企業の人も同様に忙しく、その中でスキルを磨く努力をしていることを考えると、何か方法はあるように思います。
あと、関係ないのですが、感じたこととして、こういった自らの業績に関する軌跡について記述するものは人事流動が激しい業界に合うのかもしれません。WebデザインやIT業界というのはその代表的なところだと思うのですが。栗田先生はティーチングポートフォリオはアメリカではテニュアになるための評価などで使用されるというお話があったと思いますが、テニュアではない教員、または若手の教員に自分のキャリアについて考える機会として大変有効だと思いました。テニュアの教員には簡単な1年分のポートフォリオを書くことと何かの研修を受けるという方が教員のキャリア意識は上がるのではないかと思います。
私自身、FDのセミナーを受けたというよりも、自分のキャリアを考える大変いい機会になりました。何やら、企業の自己啓発セミナーを受けているような感じがしました。
ところで、ふと思ったのですが、大学教員に企業で行われている研修を受けてもらうとどうなるんでしょうか?お金は結構かかるのですが。そういう大学は日本でありますか?私は不勉強なため、知らないのですが。たとえば、30代前半の教員には係長級のマネージメント研修、30代後半から40歳くらいまでは課長級、40歳から50歳は部長級というような感じで、HRM研修を受けてみるとか面白いかもしれないなーと思いました。中原先生@東大がご研究されている企業のミドル・エグゼクティブの人材育成みたいなものを大学教員も受けてみるというような話なのですが。私は受けてみたいですね。会社時代の同期も係長級に昇進する人も出てきていて、研修の内容を聞いてみると面白そうでした。勉強になりそうです。