私が中原先生が総括された「なりきりEnglish!」プロジェクトに関わらせて頂いてから、企業内で活躍できる人を育成するために大学ができることは何かということを考えるようになりました。
業務で必要なコミュニケーション能力の育成をするためには
大学は社会で活躍できる人材育成を行うことが1つの使命でもありますので、この点はやはり考えなくてはいけないところだと思います。大学教員は最近は私のように社会人経験を持った人が増えてきました。これはいい傾向のように思います。研究と実践をうまくあわせていくサイクルを作ることができるチャンスになると思います。実際に、ニュースでも
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にあるように、企業内で活躍できる人材を育成するために産学連携という、社会人を大学教員として雇うよりも大きな枠で進んでもいます。マイクロソフトも高専と組んで、人材育成に取り組んでいるので、実践的な人材育成の場として教育機関と組むということについては大変重要視されているのだと思います。世の中の情勢から考えると、企業(業界の団体)と教育機関が人材育成のためのプロジェクトを進めるというのがおもしろいのだと思います。お互いに限界がある点を補完しあえると思います。
実践的な人材育成を大学を行うためには、やはり、教える内容がどこまで企業で行われる業務に近くすることができるかという点にあると思います。情報技術や専門用語、設計方法などそういう知識はもちろん重要なのですが、それだけでは今までの大学教育でも十分に対応ができます。産学連携などでできることはチームとして仕事を行う難しさ、またお客様を相手に仕事をする難しさ、ここが重要だと思うのです。
例えば、このニュースでテーマになっているIT業界で新人社員がよくあることとしては、一度、システム仕様を固めたにも関らず、お客様でミドルクラスの方にくつがえされそうになる状況や、要求仕様で、ヒアリングを行ったにも関わらず「仕様漏れだろ!」としつこく言われるようなお客様と仕事をする状況をセッティングし、学習することなどあると大学生でもIT業界の実際を感じながら、学習できると思うのです。私はIT業界にいた人なので、IT業界のことしかわかりませんが、システム開発で一番、重く、体力的にも精神的にもつらいのは要求定義、内部設計、外部設計などの上流工程だと思います。特に要求定義は辛いところだと思います。お客様が口にしていること以外の部分もできるだけ気を配っておかないと、後で文句を言われることが多々あります。このような状況をセッティングし、学習していけるような環境を作るのは大学の研究者ではできないことです。産学連携や社会人経験がある人を大学教員として雇う意味があると思います。
「なりきりEnglish!」は実践的な英語リスニング能力育成のための教材・システムです。実際に働いている人の業務をそのまま英語の教材にしています。上記で記述した、ビジネス上のトラブルについてもコンテンツにしていますので、なりきりEnglish!が対象とする学習者にとっては現実度が高いと思います。「なりきりEnglish!」は社会人教育向けなのですが、これは高等教育で直面している問題に対しても1つの解決策となりえると考えています。
「なりきりEnglish!」がある所以の1つにもなると思うのですが、現状の大学におけるESP(English for Specific Purposes)、特にビジネス英語を対象としたESPは業務遂行の話まで踏み込まない限り、どこまでいってもEAP(English for Academic Purposes)だと思うのです(この点はHutchinson and Waters(1987)も指摘していますが)。ビジネス英語というのは、業務遂行という文脈と結び付けられて初めて活きるもので、どこまでその業務遂行という文脈を大学で実現できるか、ここがキーになると思います。難しいですが、この点を形にして初めて大学におけるビジネス英語教育になると私は信じています。「なりきりEnglish!」は内容として、業務をそのまま英語教材にしているので、業務に関する学習そのものといっても過言ではありません。この教材で不足している業務遂行知識を補完できる方と共同で、もしくは業務遂行知識を身につけて講義を行うことができると本当の意味でのビジネス英語教育になるのだと思います。理想論ではありますが。
現実的にはどこまでできるのか?東京大学 教養学部附属教養教育開発機構の林一雅先生(私のフットサル友でもありますが)が博士課程の頃にされていた、スタンフォード大学との共同プロジェクト学習は実際に企業から資金を頂いて、製品開発を行うというものだったと思います(企業へのフィードバックはあったように記憶していますが、ちょっと定かではありません)。さすがにここまで大規模なことは難しいですが、業界が実践的な人材育成の場として大学を認知し、人材育成の重要性に理解して下さるのであれば、大規模ではなくても、1セメスターの講義でも可能だと思います。単純に社会人を招待し、1回の講義で講演していただいても、学生には真正性(オーセンティシティー)がないので、わからないと思います。
大学側には実践的な人材育成の場と就職率向上という実績、企業側には人材育成のコストダウンと一定の優秀な人材ソースとしてのメリットがあります。体制としても、大学側は人材育成のプロフェッショナルとして、教育・学習環境の設置と教材開発、講義の実施。企業側は教材と環境の設計と育成(社内文化)に関するノウハウの共有、資金の提供(ここは大学にもメリットがあるので、出してもいいと思いますが。またウン百万とそんな高額でなくても可能だと思いますし)。もちろん一連のコースで行うことがいいと思いますが、1つの講義からコツコツやることで、同調者も現れ、広がりを見せていくのではないでしょうか。また研究所よりも、1つ、2つの大学で動いた方が小回りもききますし、また就職層が一番多い、学部を抱えているという大きなメリットも活かせると思います。
これから大学の授業というのは大きく変わるような気がします。大学教員も自分の専門をただ教えるだけではなく、社会との結びつきを説明し、できるだけそれがわかるような取組が求められるのだと思います。
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