

今回、EuroCALLというComputer-Assisted Language Learning関連の国際会議に参加してきました。聴講したセッションをいくつか報告します。

Will Mobile Learning change Language Learning? Agnes Kukulska-Hulme
この人はイギリスのオープンユニバーシティーの人ですが、外国語学習でのモバイル利用で、急に名前が出てくるようになった人です。何かモバイルについて研究をしているわけではなさそうで、外国語学習の中で今まで出てきていたモバイルに関する研究を早い段階からレビューしたことから、結構名前が出てきたように記憶しています。


ヨーロッパにおけるさまざまなモバイルの教育利用に関するプロジェクト紹介がされていました。おもしろかったのは、Mobileduという中国(?)生まれの携帯向け英語学習コンテンツで、オリンピックに合わせて、中国国民が英語を学習する機会を増やすために行われたそうです。Nokiaと英語教育研究者、英語教員が協力して開発したということでした。Mobiledu<
http://jp.youtube.com/watch?v=dTYZi3hUzQA>

インターフェース的によく出来てたと思うのが、C-Shockという留学生向けにイギリスの文化を知るためのゲームをPDAで学習するというものでしたが、インターフェースはフル・フラッシュで見栄えがするのですが、まあ、ドリルですね。

ヨーロッパの観点からモバイルにおける学習は何を変えるのか?という点では、場所、時間などを制限なく、日常生活における学習において、社会的な支援(Socio-technical support)を行うためのキーとなるものということでしょうか。社会的な支援というのは、教員からだけではなく、仲間などからも支援を受けることができ、それを促進することができるという意味合いですね。話を聞いてみると。それは一種、Web2.0のコンセプト内にあるということなのでしょうか?
これはFuture Labの報告書にも書いてありましたが、学習者がいる場所だけではなく、動きにもあわせて、コンテンツを提供できるというのはモバイルならではだと思いますが、その特徴と学習内容を合わせたものはこの方の講演ではありませんでした。

よく国際会議で発表するとパケット料金の話は必ず上がってくるのですが、このスライドで説明されているように、自分のデバイスで自分が好きなように扱い、行動するのがいいと思います。
というよりも、このスライドで使われている画像は我々BEATのWebから取ったものです。絶対に。ということはこの人はBEATの研究内容は知っているということになります。残念ながら、BEATの研究成果がこの人のスライドの中で出てこなかったのですが、その理由はたぶん、1:この人にとって、興味がなかった。2:私たちが国際会議ではなく、国際「論文誌」に投稿を一度もしていないからだと思います。実際に徳島大学の矢野先生と緒方先生の研究は紹介されていましたから。関係ない話ですが、BEATは世界的にも誇れるいい研究していると思うのですが、世界的なアウトプットが弱いのは否定できません。残念ながら・・・(と言って、私がやれ!といわれても、重量級の負担なので、厳しいのですが)

モバイルを使用した学習で設計や評価の段階で検討すべきこととして、学習者の参加程度ということですが、これは・・・Web2.0そのものですよね?

しかし、携帯電話によって、インフォーマル・ラーニングの機会を意図的に増やし、支援する有効なツールとして注目はされていますね。そこで、先ほどのC-Shockもインフォーマル・ラーニングとして提供されうるものだと思います。

彼女が最後に締めくくったのは、「動機付けにつながり、フレキシブルな学習コンテンツを作る」、「学習者に自分に必要な言語能力がどういうもので、どういうレベルのものなのかを把握させる」という2点を言われました。しかし、これは携帯電話を使った言語教育特有の問題ではなく、対面授業でもPCベースの言語教育システムにおいても今まで散々試みられてきたことであって、これが携帯電話がどのようにかかわることができるのか、ここがいまいちぱっとしないですね。
Using Technology for self-study in language learning - the academic perspective
Malgorzata Kurec

この研究はハイレベルの学習者(Self-directed Learner)が言語教育におけるコンピューター利用に関する考えについては発表されたものです。

Russelのコンピューター技術の適用段階指標が引用されていますが、このデータが結局、どう扱われたのか、最後までちょっとわかりませんでした。各段階にいる被験者の割合はわかったのですが・・・

コンピューターというものは、エンターテインメントのツールという理解がある一方で、外国語学習のためのツールでもあるという理解もあるということ、また、日常的に外国語教育のためにコンピューターを使用しているということでした。

CMCは名前通り、コミュニケーションツールですので、ある程度の自主性が求められるのですが、CMCを使用するときに英語は使用しない学習者とeメールで使用するという学習者に二分されるようです。

結果的にはあまりいいものではなかったということですが、これは先ほどのRussellの指標や追加で自己調整学習尺度などとの関係性を見て、言語教育におけるコンピューター使用支援が学習者の自己調整度にどこまで貢献できるかという方向で研究できるとこの研究の突破口があるように思います。
このような研究は日本ではあんまりウケないと思うのですが、これはコンピューターが広く普及していない国においてよく見るように思います。新しい情報技術が出てきたときは、この技術をどのように使えばいいのか、どういう理論と関連しているのかという話を合わせて、新技術を評価するという研究はよくされていますよね。そういう話と同じだと思います。
Motivating learners with synchronous online discussions in the English class
Reka Eszenyi
写真はないのですが(聴講者が3人だけだったので・・・)、テキストチャットの実践的研究(CALLの分野ではほとんどが実践研究で私のような実験室実験として評価する人は大変少ないです)も見ました。これはハンガリーの高校生(セカンダリーと言ってましたが)8人を対象に半期の間、テキストチャットと通常授業で、スピーキングとライティング能力の伸びについてプレ・ポストで実践比較をしたものです。
テキストチャットを使用した理由はLee(2002)、Dornyei & Otto(1998)あたりを引いていたので、動機付けやリアルタイムのコミュニケーションの中でもリフレクションの効果があることを期待したからだと思います。
半期の効果をみると、おもしろい点が1つありました。スピーキングについては統制群の方が有意に伸び、ライティングについてはテキストチャットの方が有意に伸びたというところです。これは通常、「あたりまえじゃないの?」と言われるかもしれません。ですが、これは今までの同期型CMCを使ったCALL研究においては、逆の知見になっています。この研究では、残念ながら、実験群・統制群の統計的な比較は行っていないこと(つまり、2要因2水準の分散分析を行っていない。または差分によるU検定を行っていない)や、何を指標にして、スキル評価したのか不明なため、よくわからないこともあるのですが、テキストチャットはスピーキング能力へ転移しやすいというのは今までの研究で言われています(Abrams ,2003)。そのことから、テキストチャット群でもある程度の伸びが期待できるのですが、ここではそうではなかったという点です。
また、ライティングについては、テキストチャットでは皆さんもご経験の通り、1文の長さが短くなりますので、ライティングで求められる、構造的な書き方や語彙の適切さなどに関する能力の伸びはあまり期待できないのですが、ここでは伸びたとされています。これは大変不思議なことだと思います。
Web 2 Technologies for net native language learners a "social CALL"
Andrea Karpati

この基調講演はわかりやすかったです。Web2.0をどのように教育に活かせばいいかという話なのですが、Web2.0というものを正しく理解されて、ICTを使った教育に活かそうという話ですので、シンプルで、聞きやすかったです。Web2.0というのは、さまざまな特徴がありますが、その1つとして集合知というものがあります。この点に絞ってお話されてました。そこまで新しい概念を知ったわけではないですが、ヨーロッパのプロジェクトなどについての情報を聞くことができただけでも十分な収穫でした。

はじめに、仮にWeb1.0というものがWeb2.0という概念が登場する以前のものであるとするならば、どのような変化があったのか示してくれています。Webの利用者が増えたというのはいいのですが、それ以上に自分からコンテンツを作成することや、情報の提供を行うことが急増したということです。これはBlogに代表されるように、マジョリティーの意見が支配的になっていたところが、必ずしもそうではなく、マイナーな意見や情報でもそれを中心に情報提供がなされ、1つのコミュニティーを形成しやすくなってきたということだと思います。

これがこの方が考える集合知とその実現技術です。よくある話です。しかし、WikiをAmateur Academiaっていうんですね。


これ以降は様々なプロジェクト紹介でした。ECが中心になって、EU各国のデジタルコンテンツのメタデータ付けと共有を行っているという話を以前聞いたことがありましたが、このお話もありました。ヨーロッパでは言語教育というのは大変重要な位置づけになっています。ICTの利用となると、最初に言語教育というくらいだと思います。これはヨーロッパは国間で労働力の流動が激しいことや、移民の受け入れを行っていることが代表的な社会的背景です。ですので、言語教育のデジタルコンテンツ、ICT利用、そして上記のようなコンテンツ共有プロジェクトには日本と比べモノにならないくらいの巨額な予算がつきます。

あとSwoogleという検索エンジンについての紹介もありました。これは検索しているユーザーのデータと関連付けて検索を行うため、より自分の希望にあった情報を見つけることができ、さらに似たような嗜好をもつ人の意見も見ることができるということだと思います。

ソーシャルフィルタリングによる、情報推薦についても説明されていました。ソーシャルネットワーキングを介した情報選別・推薦ですね。Diggをその事例として紹介されていました。
この方の講演は情報収集の面で、大変意味がありました。
写真はないですが、私も発表してきました。私の発表日はエクスカーションと目玉のプレゼンテーションとバッティングしたので、残念ながらあまり人はいませんでした。8人程度です。しかし、コミッティーの方が見に来てくださいまして、これは大変うれしかったです。
いろいろご意見をいただいたのですが、言語教育の観点からはコミュニケーション媒体とタスク設計の関係が重要視されていて、これが言語習得に結びつくという考え方で、私の研究ではコミュニケーション媒体の効果という点に絞って発表したので、ちょっと評価の観点が異なる部分もありました。これをどう吸収するか。次の課題です。次回の研究ではタスクの設計と学習者のタスクに対する意識についてもデータ収集を行っておこうと思います。基本的には、ウケはよかったようです。
EuroCALLに参加して思ったのは、
研究発表という観点では
・どんな発表者でも絶対に先行研究を引いてくるということ
内容の観点では
・ヨーロッパの方(たぶんイギリス以外)は学習者のレベルについて言及するときは、CEFRのレベルで説明をする
という点です。
前者の方は当たり前のことなのですが、残念ながら、私は学会発表でも、先行研究を引いてないものを多く見ます。特に外国語教育系は先行研究を引く人と引かない人できれいに分かれます。後者の人は授業実践を報告するだけなんですね。これは本当に良くないです。実践研究にもなっていません。前にも書きましたが、これは「ただやりました」というだけです。授業実践をやることは否定しませんし、いいことだと思います。授業をより良いのが、学会の場として発表するのは良くないです。これは授業研究会とか、そういう場で報告することで、研究の発展を目的として、研究について発表する場としてはふさわしくない内容だと私は思います。ヨーロッパはたとえ授業実践でも、なんでこのような実践をしたのか?という点を背景理論やCALLの先行研究をひっぱってきて、発表をしています。少なくとも「SNSって流行ってるし、学生が楽しそうにやってるし、授業で使ってみました」というような発表はEuroCALLではありませんでした。
後者については、また全然違うことですが、学習者のレベルや授業内容の話をするときはCEFRの指標で話をされるので、CEFRが浸透していることを実感しました。ただ思うのは、CEFRに乗っかると、研究として別のことをやろうと思っている時に、CEFRの縛りがあって、研究として見極める点をはっきりしておかないといけないだろうなと思いました。コミュニケーションツールを導入するにも、CEFRからみて、そのツールはどういう意味があるのか、とかそういう縛りがつくと、研究をするにもなかなかうまくやりたいことができないように思います。
来年ですが、スペインのバレンシアというお話をしましたが、ちょっと違ってました。バレンシアから50分ほど電車で南に下った街です。雰囲気は良さそうです。来年も出せたらいいなと思います。