教育と外的動機付け

Cnet Japan
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カンヌ国際広告祭で、ニューヨーク市教育局がTitanium Lion賞というものを受賞したそうです。端的に言えば、携帯電話を教育に使用し、アプリケーションの利用時間やグッズなど外的な動機づけで学習へのモチベーションを向上させるという仕組み。例えば、授業に出席すること、宿題などでポイントが入り、ある一定のポイントがたまると、チャットなどのコミュニケーションツールを使用することができることや、音楽のダウンロードができるなどのインセンティブがあるそうです。日本では考えられないことです。公教育において、金銭と等価なものをインセンティブにするということは日本では避けてきていることです。

しかし、このようなことを踏み切ることができる背景として、日本とは大きく違った状況があるようです。Cnetの記事によると、人種的マイノリティーが50%、大学卒業できないことや、アフリカ系の大学生は囚人よりも少ないという日本にはない状況が、日本人の感覚では教育としてタブーと思われる仕組みを導入させたのではと思います。

現場の教員はこのような取り組みの導入に抵抗があったものの、導入後、その効果はすぐに出たそうです。それはそうですよね。外的な動機付けは強いですから。特に高価な商品をインセンティブとして掲げた場合、大きいでしょう。態度面で出るのは自明だと思います。

この記事を書かれたヤマグチガクさんはこの仕組みが成功した要因を3つ挙げてらっしゃいます。

1:ターゲットのインサイト(人間の心をつかむもの)にあった仕組みであったこと
2:ターゲットとコミュニケーションをするために最適な媒体であったこと
3:インセンティブを与えることで勉強への挫折感よりも達成感を味わせた

1についてはアメリカと日本では社会的状況が大きく違うので、想像しにくいことがあるのですが、私は勉強になったのは学習者の社会的状況も含めた分析に沿って、学習環境のデザインをするということが、ターゲットを絞ることができれば可能ということです。もちろん、経済的な要因という点で、携帯電話を無料配布するというようなことは日本ではなかなかできないことではありますが、家庭状況や友人関係などを分析することで可能ということであれば、1つ参考になると思いました。英語教育ではESP(English for Specific Purposes)という、特定目的のための英語教育(ビジネス英語など)の分野でターゲットのニーズ分析が重要としていますが、教育にも社会的要因も含めた分析を入れるのはおもしろいですね。

2については、これは教育工学分野ではよく言われていることで、この仕組みでもポイントになっている学生同士のコミュニケーションを円滑化させるツールとして、携帯電話は手から離せないほどです。ここはそうだと思いますが、ヤマグチガクさんも指摘されている、携帯電話を無料配布できることと、カスタマイズできるというところまで漕ぎつけたからこそ、この2番目の点が効いているとも言えます。

3:インセンティブですが、これは難しいです。外的要因による動機付けは学習心理学の分野でも言われていますし、このパワーが大きいのは世界中の教育現場の人もわかっています。しかし、はたして、これはいいのか?というところでみんな躊躇すると思うのです。私もそうです。インセンティブを与えるにしても、アカデミックな何かと結び付けたいと思います。たとえば、大学のプロジェクト学習で、研究手法を学ぶという授業では、大変優秀なものについては学会発表をさせ、それに伴う旅費・滞在費を支給するというようなことはあると思います。しかし、公教育の場においてアカデミックなこととは関係ないものをインセンティブに使うことは抵抗がありますね。ここをどう説明するか。また、外的要因による学習動機を内的な要因で学習する方へシフトさせていくことが重要なのですが、この3つの点では大変重要なこの点が見過ごされているように思います。

私のように「教育」ということに頭が固められている身にとっては、このような仕組みを導入する側になったとき、導入に踏み切る勇気がないですが、このような公教育においてタブーと思われていることも議論することで、何か新しい発想が生まれてくる可能性はあると思います。